13話
「というわけで、付き合うことが確定しました! 以後よろしくー」
次の日の朝のHR前に、学校でいつもの屋上で俺と町子の付き合います宣言を行った。栄子は見当たらないが、颯斗と千代もいる。
千代は教室で突っ伏していたので、拾ってきたが。
「思ったよりはやく事が進んだわね。いいことだけど」
会長含めグループメンバーには隠すことなく話を通しておかないと面倒なことになると思ったので、速攻で伝える。
「なんか裏で関わってるんですか?」
「別に関わってないわ。ただ、もう少し時間をかけたほうがいいかなって思っただけ。今だと小姑1人と荷物1人が残ってるからね。そっちの問題を解決してからでもいいと思ってたから」
小姑は栄子、荷物は千代のことか。言いえて妙だな。千代に至ってはここにいるのに、本人を目の前にして。
「いいですよ。恋は障害があったほうが燃えますから」
「障害が多いけどな」
「生涯がかかった恋だからね」
「颯斗も乗らなくていいから」
「傷害事件が起こる可能性もあるね」
「千代も演技でもないことを言うな。いつ練習したんだ」
栄子がいないのに見事な3連コンボ。町子も徐々に毒されてるな。
「あー。やっぱ桂がいると突っ込みが楽だわー」
「会長は何言ってるんですか」
「ううん、こっちの話。でも栄子はどうしようかしら?」
そう、栄子の問題はなかなか奥深い。あの食べ物に意地汚い栄子が、ギリギリだったとは言え、その誘惑に勝っているのだ。それほど彼女の意思は強いとも言える。
「まぁ栄子のことは私達に任せておいて。いろいろ手は考えてるから。それよりも、自分達のことも考えなさい」
そして、屋上での会議が終わった。
『ねーねー、付き合うって本当?』
『2人いつも一緒にいると思ってたけど……』
教室に戻ると、いきなりクラスメイトに質問攻めを食らった。
「何で皆知ってるんだ? まだ会長と颯斗と千代と栄子しか知らないはずだぞ」
「それについてだけどさー。ケーくん」
千代が机に突っ伏したまま顔だけ上げてこちらに話しかけてくる。
「なんか知ってるのか?」
「ああ、今日は母がこっち方面に用事があったから、車で連れて来てもらったんだ。それで朝早くからいたんだけど、栄ちゃんが、全クラス回って、ケーくんと町ちゃんのことを言いふらしてた。多分学校中全員が知ってると思う」
「な、あいつ……」
やけに姿を見ないと思ったら、そんなことをしてたのか。
「まぁまぁ。別にそれならいいんじゃない。栄子ちゃん動揺してるのよ。それに、栄子ちゃんが言いふらしたほうが、周りからの既成事実みたいになるし、悪いことじゃ……」
『大須先輩を弄ぶだけ遊んで、乗り換えたんだって?』
『私は、逆レ○プを浅間さんがしたって聞いたけど……』
『むしろ4Pをして、1番相性のよかった浅間さんを……」
『XXXXXXXXXXXXXXXXX』
おーい、とんでもない噂になってるぞ!
「わ、私は何もしてない! 処女よ処女」
「落ち着け町子! とんでもないカミングアウトになってるぞ!」
このアホな噂を沈めるのに、カリスマ会長と、ハイスペック颯斗の力を借りても、2日かかった。
だが、結果的に俺と町子が正式なお付き合いをすることが、学校中に知れ渡り、いろんな意味で引っ込みがつかなくなってしまった。
なんかいろいろ早まったかなーと心配になるのであった。
「と、いうわけで! 今から何とか先輩を正気に戻そう会議をはじめます!」
「俺帰っていいか?」
「私も帰りたい」
「……はぁ……」
「ZZZ」
「ふっ、全員集合というわけか」
放課後の屋上に、俺、町子、会長、栄子、千代。颯斗が集まった。全員集合である。もちろん千代は俺が運んできた。エネルギー切れのため寝ているが、仲間はずれにするのは悪い。
「というか、その会議内容なら、俺と町子は参加しちゃいけないんじゃないか?」
「仲間はずれはかわいそうじゃないですか! 後そのタウン子の居心地を悪くさせるためですよ」
町子をなんと言う呼び方をするんだ。しかも切る場所によってはかなり失礼である。
「私帰るわ」
「ああ、俺も」
「ちょとまてちょとまて先輩さん!」
「引っ張るな、服の裾が延びる!」
「ちゃんと話を聞いてください。私も何の考えも無かったわけじゃないんです。きちんとメンバー全員で話して、私の気持ちを理解してもらいたいんです」
「栄子……」
栄子の真面目な顔は珍しい。確かに、このままじゃ埒が明かない。1回ちゃんと話をしとくのも悪くないか。
「でも実際、明確な反対意見は栄子だけでしょ。このグループの中での多数決はもう出てるわけだしさ」
「1票の格差がありますもん! こんなの違憲です!」
うーん、改めて客観的に見てみると栄子は俺と南の関係にこだわりが強いのを感じてしまうな。これはよくない。俺も変わるように、栄子も変えないと。
栄子の意見には妥協案がない。俺と町子の付き合いがお試し期間とか言ってるのにこの騒ぎよう。本格的に付き合うとかいいだしたら、この比ではないと思うと、既に気が重い。
「私達は支えあって生きてきました。このバランスを崩すのはよくないと思います!」
「フフフ、そうだ。我々は一生独り身でも生きていけるようにすべきだ。そうではないか、会長!」
「嫌よ! 私は伴侶必要だもの! 一生独り身なんて!」
「私は独り身でもいいのだが……、1人身だと生きていけない可能性が……」
「話の方向性がずれてる! 颯斗、いきなりどうした!」
「王者は常に孤独なもの……、俺に届く妾はいまい。いや、愛人なら考えなくもないか?」
あ、颯斗暴走モードになってる。どこにスイッチがあったのかな?
「しかし、俺は意見が少し変わった。この恋愛について気になることができたんだ」
「は?」
暴走モードかと思ったら、颯斗が急に神妙な顔になった。
「ふぅん、理由はあるのかしら?」
栄子以外からの反対意見に、町子も気になるのか颯斗に聞き返す。
「理由は2つ。付き合うまでのスパンが早すぎる、もう1つは俺にはどうしても南と町子をまだ桂太郎が混同しているように感じるからだ」
颯斗の真面目な意見は栄子以上に珍しい。だが、こいつとの付き合いは本当に長いし、人を見る目は間違いなくある。そうでなければ、ただハイスペックなだけで、生徒会長になることはない。
「普通の恋愛なら、俺は歓迎した。わが妹の南のことを吹っ切ったことになるからな。だが、これは不安だ。もっと時間をかけてからの付き合いであればいいが、この速さでは俺にはそう感じてしまうな」
「……、颯斗、お前は俺が南の代用品に町子を選んでいると思っているのか?」
暗にそう言われたように感じてちょっと悪い利き方をしてしまう。
「別にそうとまでは言っていない。これは友人としての忠告だ。別に町子に関わるなというわけではない。ただ、このままではお互いが不幸になるのではないかということだ」
「町子は町子、南は南だ」
「ふむ、それならば、俺を安心させるくらい納得をさせてみればいい。俺だけじゃない。栄子のこともだな」
「反対なのか……、お前は」
「お前は分かってない。南を失ったときのお前がどれほどひどかったか。俺だけじゃない、栄子も、会長も……」
「そこまでよ。颯斗」
普段クールな颯斗。彼がこれだけ感情論で話すことは珍しい。それを察知してか、会長が止めた。
あまりの剣幕に、1番反対していた栄子が動揺するほどだったのだが、ここはさすが会長である。
「会長……」
颯斗がいつもの無駄なポーズ無しで会長の事を見る。
「颯斗、あんたの気持ちは痛いほど分かる。でも熱くなりすぎよ。あなたがしたいのは説得なの? 喧嘩なの?」
「……説得だ」
「なら、もっと落ち着いて。今のあなたに桂のどんな言葉が届くというの。頑なな状態じゃ、正論も耳に入らないわ」
「桂もよ。あなたこそ冷静にならないと、回りは不安になるだけ。私ができるのは、あなた達が付き合うところまで、その後は自分でなんとかしなくちゃいけないのよ。手助けはできても、決定はできないから」
「はい、悪かった颯斗。つい南のことを言われて……」
「いや、いい。俺らしくなかった」
いつも自信満々の颯斗がこれだけ熱くなってくれるというのは、本当に俺のことを思ってくれているからだ。南が死んだとき、本当に1番辛かったのは、双子の兄である颯斗なのに、俺を気にして気遣ってくれたのだ。
それだけに不安なのだろう。この恋が失敗して、また俺が昔のようになってしまうことが。冷静になってみれば、颯斗の心配はよく分かる。
しかし、そう考えてみると、栄子の行動も原因は俺ということになる。俺の態度や行動が、周りに対して心配をかけているから、栄子にしろ颯斗にしろ、納得できないということだ。
「いやぁ……あっついね。つい眠気も吹っ飛んでしまったよ」
緊張感の走る空気の中、千代が目を覚まして、緊張感を緩和させる。
「千代はいいのか? なんか意見があるなら」
千代は明確に反対してはいないが、それは颯斗も一緒だった。でも颯斗には思うところがあって、先ほどのような意見が出てきた。千代にも何かあるのかもしれない。
「んー。私かい? 私は当の本人であるケーくんが後悔しないならいいと思う。成功するにしろ失敗するにしろね」
「俺の問題なのか?」
千代らしい意見ではあるが、俺と突き放した意見でもない。
「南ちゃんのことは確かに悲しい出来事だった。だが、そこに君の責任はない。だから、私達が心の傷を癒すことはできた。だが、今回のことは、君が失敗すれば、それは君の責任になる。その後悔による心の傷は私達では癒すことができない。だから、最終的にどんな形になるとしても、君がすっきりできる形が望ましい。本当に君が町ちゃんとこのまま付き合って、絶対に後悔しないというのであれば、私に反対することはないさ。単純に性格の不一致とかで振られたくらいなら、私達は君を慰めるさ。だが、後味の悪い結果になるというのであれば、付き合わないほうがいい。わたしはそれだけ……ZZZ」
あ、エネルギーが切れた。確かに千代にしては長い話だった。
「……皆、心配かけて悪い。でも俺は大丈夫だ、後悔しないし、皆に気にさせることもない。俺は町子と付き合っていく!」
皆の説得もあったが、俺の意思は変わらない。町子と付き合って、うまくやっていくのだ。
「み、皆、反対意見はないんですか!」
俺は意思をこめてこの言葉を言った。その言葉に反応して、栄子が発言した。
「颯斗! 反対なんだよね」
「あそこまで言うならなにも言うまい。幼馴染の言葉を信じよう」
「チー先輩!」
「…………、後悔しないなら……いい」
「会長!」
「私は最初から何も反対していないわ」
「……そんな! じゃあこのグループはこれからどうしていくんですか!」
「……、もう解散でもいいんじゃないかしら?」
「「「え?」」」「ZZZ……え……?」
会長の発言に、俺達は全員硬直した。




