12話
「はいはーい、道端でいちゃいちゃしなーい」
いい雰囲気の中で、食べすぎリタイアしたはずの栄子が乱入してきた。
「な、なんだ栄子」
「なんだじゃありませんよ。この公道、これすなわち公の場ですよ。ここでいちゃいちゃするのは公序良俗に反します」
「栄子ちゃんおはよう。体調はもう大丈夫なの?」
「ふん、いーっだ」
「おい、挨拶と気遣いを悪態と威嚇で返すな」
「私はまだ納得していない! 会長は協力しろって言ってたけど、私の意志は尊重される。基本的人権の尊重だ!」
「町子のご飯に満足してるくせに?」
「もうそういうところが可愛くみえてるけどね」
「可愛くない! いや、見た目は可愛いけど!」
こいつ自己評価高いな。確かに可愛くなくはないが。
「見てろー。今に目にもの見せてやるー! ぱくっ」
するとカバンから肉まんを取り出して口にくわえる。
「ふぉーふぁ。ふぉふぇふぇふぁふぇふぉふぉふぁふぇふぇふぃふぇふぉ、ふぁいふぉうふふぁ」
「ふぁしか聞こえないんだけど……」
「多分な、『どーだ、これでで食べ物が出てきても、大丈夫だ』って言ってるんだと思う」
俺が説明すると、人差し指を俺に向けて、栄子がうなづく。どうやら正解のようだ。
がさっ。
そしてカバンの中を見せてくる。肉まんがたくさん入っている。ここまでしないと、食べ物の誘惑に勝てないということか。根本的な発想があほすぎる。
「ごくんっ。さぁどうする偽者! 私を懐柔せずに先輩を手に入れることは不可能! 食べ物作戦が効かない以上は、私は無敵モード!。さぁ後は先輩が現実を見せるだけ。どうぞ」
片手に肉まんを持ったまま、俺を笑顔で見てくる栄子。
「栄子、それなんだが……」
「そうです! ばっちり聞きますよ」
「俺さ、町子と付き合ってみることにするよ」
「そうそう、聞いたか、偽者、先輩はお前と付き合うんだって、良かったなー、ってなんでやねん!」
栄子が見事なまでのお手本のようなノリ突っ込みを決める。顔も、笑顔→真顔→憤怒とコロコロ変わっていた。
「すいません、もう1度言ってもらっていいですか? 聞き間違えたみたいです」
「町子と付き合うことに……」
「もう1回」
「町子と付き合う……」
「もう1回!」
「町子とつ……」
「しつこいです!」
「お前が言わせたんだよ! 現実を受け止めろ!」
「すいませーん、肉まんが耳に詰まって聞こえないみたいです」
「どういう状況なんだ。なんで耳に肉まんが入るんだよ」
「さっきまでこうしてたので」
「肉まんで遊ぶな」
栄子が肉まんを2つ取り出して、耳にあててヘッドホンみたいにする。世界でも肉まんをこのように使う人間は存在しまい。
「まぁ全部聞こえてましたよ。私は耳かきをかかしていませんからね」
なんという時間の無駄。
「それよりも、桂太郎、付き合ってくれるんだね」
「先輩正気ですか! この人はお姉ちゃんじゃないんですよ。質の悪い廉価版ですよ」
「…………」
あ、さすがに町子がむかついた顔をしている。廉価版はひでぇ。
「大丈夫だ。俺は正気だ。町子を南と勘違いして付き合うわけじゃない。あの我を忘れた日とは違う。ちゃんと町子を相手にして付き合うつもりだ」
「う、嘘だ――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
大音量で叫びながら、頭を抱えてしゃがみ込む栄子。
……少し気の毒ではある。行動の内容の良し悪しはおいておくとしても、こいつに悪気は無い。
「くそー、いったいどうやって……、薬? 催眠術? 怪しい光? 超音波? フラフラダンス?」
「途中からポケ○ンの技になってるぞ。俺は混乱しとらん」
「わけも分からず、先輩を攻撃した」
パァン!
「いってぇ! 俺を叩くな! 自分を叩け」
「先輩、目が覚めましたか?」
「最初から覚めてるわ!」
「あの女への感情も冷めましたか?」
「冷めんわ」
「あえて言うなら、女子力で落としたわ」
おお、まさかの町子インターセプト。
「ぺっ、反吐が出る」
おい、うら若き高校生が、つばを吐くな。
「先輩、私には正直になっていいんです。脅されてるんですね……。きっと言うことを聞かないと、私の身柄が危ないって……」
「仮にお前の身柄が危なくても、俺はかばわんぞ」
「まぁまぁ、落ち着いて、付き合うって言っても、期間限定のお試しってことになったの。だから、1週間くらいで別れるかもしれないし……」
「1週間もあれば、種を仕込むことが可能じゃないですか! せめて3時間にしてください!」
「短すぎるわ!」
「性行為をして既成事実ができたら、律儀な先輩は責任を取るに決まってる! 愛なんて後からついてきますもん!」
「落ち着けって」
「英語の授業でもあったじゃないですか! Hの後にIが来るって」
「ちょっと頭のいいボケをかますんじゃない」
なまじ成績のいい栄子のボケは、ちょっとうっとうしい。
「そんなに怒らないで。ほら」
町子は肉まんを取り出す。
「お、出たな、肉まん。その手は食わないといったはずだ。肉まんは食べるけどな」
栄子はかばんから予備の肉まんを取り出して、口に加える。予備の肉まんってなんだ。というか、何で町子も肉まんを持ち歩いているのだ。
「ふふふ、これをただの肉まんだと思ってるのかしら……」
「そ、それはなんだ……」
「これは、あんまんよ」
具が違うだけじゃん。それじゃあさすがに……。
「うう、あんまん……」
「懐柔されかけるんかい!」
そういえば超甘いもの好きだったな。
「くそー、罪のない肉まんを見せてくるなんて……、肉まんに罪はない……、肉まんを憎まん……」
余裕があるのかないのか分からん。
「ぐはぁ! だめだだめだ!」
お、耐え切った。
「ここは戦略的撤退だ! 命拾いしたなー」
見事なまでな捨て台詞を残して、走りさっていった。
「うーん、問題の解決は大変そうだな……」




