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10話

「少し接してみて分かったけど、栞那さんは男気があって、栄子ちゃんはバカで、千代は適当な子ね」


「実に分かりやすいな」


帰宅しながら、メンバーのことも話してみたが、実に要領を得た内容だ。栄子の名誉のために否定してやりたいが、あいつを表現するのにそれ以上にふさわしい単語はない。なまじ勉強ができるせいで、より一層残念である。


「ねぇ、今日は時間ある?」


「別に用事はないな。買い物行って、飯作るくらいだ」


生活の中身なので、さほど用事という用事でもない。


「一緒に買い物行きましょ。今日は私が夕食を作ってあげるわね」


「まじか!」


別に家事は苦手ではないが、作ってもらえるのはとても嬉しい。人の手料理というのはそれだけで愛情がある。


ただ、彼氏彼女になってからの期間を考えると、いきなり家に来てもらって、料理をしてもらうのはステップが早すぎるのではないかとも思ってしまう。いかんな、どの程度がいいか判断がつかん。経験地不足にもほどがある。


「いやぁ、毎日自分で作ってるから、人のはありがたいよ」


「うん、そういうのに飢えてるかなって思って。お料理上手で、一人暮らしじゃどうしてもそうなるよね。でも、女の子が3人もいて、お料理は作れないの?」


「会長は俺に料理を教えてくれたから、俺の料理は会長の料理と変わらん。栄子は作れない。千代は栄子とは少し違う意味で作れない」


「うん、なんとなく分かったわ。じゃあお家に行くわね」


ちょっと言ってて悲しくなったところで、町子の提案。これは受けてもいいものか……。


「だめかな?」


「もちろんお願いします」


あ、しまった。自我はあるけど無意識に答えちゃった。


あの顔で上目遣いは反則である。




「中華鍋を振ると腕が太くなっちゃうのが悩みよねー」


「え、町子ってそういう料理つくるの?」


「中華料理が好きなの。昨日のお弁当は逆に普通の料理だから、火力が合わなくて……」


「まじか。中華は火力! って感じか?」


「美味しい食べ物を自分でいつでも作れるって最高だもんね。最近は女の子でも料理しない子いるから」


「俺はそこまでこだわっては作ってないな。生活のための飯って感じだし」


「人間が一生の間に食べられる料理の数は決まってるんだから、適当なものを食べるのは面白くないと思うの。食道楽っていうのがあるくらいだし、食べることって人生の娯楽では最高に近いでしょ」


町子は料理へのこだわりが強いんだな。確かに弁当の味付けもとてもこだわってて美味かったな。


「お弁当よりずっと美味しいわよ。手料理楽しみにしててね。某王将にも負けないくらいのを作るから」


あれに負けないとなれば、相当だぞ。あのチェーン店の味のレベルチェーンじゃないし。




「お帰りなさい。ご飯の前にします? お風呂でします。それとも私ですか?」


帰宅したら栄子がいた。


「ああ、そうか……、今日は金曜日か」


追い出そうとも思ったが、金曜日と土曜日は栄子が1人きり。うかつに追い出すこともできない。


「あら……、そうね。その話は会長さんから聞いてたわ……。私も忘れてたわ」


俺としては自然に栄子が金曜日と土曜日にいることが当たり前だったから、そこまで意識が無かった。


「へっへー、2人きりになんかさせねーぜ。金曜日と土曜日にここに私がいるのは、両家の家族公認のルールだ。追い出せるものなら追い出してみろ!」


栄子が調子にのってるな。


この展開、どうすればいいのだ。



「おー。うっめぇ」


1時間後、栄子は町子の料理に夢中になっていた。


「おい、何普通に食ってんだ。敵対関係はどうした」


「違います。これはあれです。ほら、交際費みたいなものです。敵対していても、協定を結ぶときとか料理食べますよね」


「美味いように言ってもだめだぞ」


「実際美味しいですしね」


「まぁな」


実際かなり美味い。


「いい感じね。火力も十分だし」


この家のコンロは母がどういうこだわりでつけたか知らんが、けっこう火力がでる。


気になるのは、町子はどっからあの中華の鍋を持ってきたのだろうか。


四川風の美味しい料理をいただいて、町子は帰宅、栄子は在宅となった。栄子の勝ち誇った顔がすごくうざかったので、その日はいつも手加減してやるゲームで全勝してやったのはまた別の話である。


「うーん、俺はどうしたいのだ」


夜中に目が覚めてふと考えてみた。


俺は彼女のことをどう思っているかが不安で仕方ない。


俺は南の思い出を吹っ切るために彼女と付き合っているのか。


それとも彼女に南の面影を重ねているのか。


あまりにも彼女は南に似すぎていて、彼女を前にするとあまり冷静になれない。


だが、どうしても俺は後者な気がしてしまって仕方ない。


後者であれば俺のやっていることは最低ではないのかと不安になる。でも、彼女に何か言われたりすると嬉しくて、つい断れなくなる。


俺が女性に弱かったことを改めて感じるものだった。周りからは綺麗どころをメンバーにしていることで、そんなことないと思われていただろうが、そもそも俺にとっての恋人という存在は南だけ。他のメンバーとは意識してかしなくてか別としてそういう関係になることは無かったのだ。要するに俺の恋愛経験地は中学生になった頃で止まっているというわけだ。とんだお笑いだ。


でもそんな俺にきっかけはどうあれ、変化をくれる可能性のある女子。それが町子である。それに対する期待感を俺も感じている。



最愛の恋人を失ってから3年。いろんな意味で俺が反応できた女子は彼女だけ。しかもそんな彼女が付き合ってもいいと言ってくれているのだ。これは奇跡的なことではないのだろうか。


どう考えてもこれはチャンスではある。これを逃したら、俺は一生南のことを引きずったまま1人で生きていくことにもなりかねん。それは南も望むことではないだろうし、俺を励まし続けてくれていたメンバーにも失礼というもの。


だが、それでいいのか。なんか彼女を利用しているみたいで気持ちよくも無い。


そんなことを考えていると、また俺の思考は眠りに落ちた。


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