9話
~サイド栞那~
「さて、会議よ。この状況を理解しないおバカさんを教育するためにね」
私は栄子、千代、颯斗を集めて、会議をした。
「俺は何もしていないぞ。旧友である桂太郎が頑張っているのはいいことだ」
「まぁあんたはいいわ。今後恋愛関係でアドバイスがあったら協力して」
颯斗はモテるし、自分の興味のないものには関わらない。私に対しても協力してくれるから、とりあえずはいいわ。
「私は何もしていないぞ」
「あなたは何かしなさい。桂に頼らないようにしなさいよ」
「悪いね。つい癖で。他に頼れる子がいればいいのだが」
「その辺りは私も考えるわ……」
桂のいいところでもあり、悪いところでもあるおせっかい焼き。南もそうだったけど、とにかく困ってる子を助けることが多かった。
小学生のときから、千代の面倒を見ていたし、栄子も明らかに1番甘えているのは桂である。私が1人暮らしできるように家事を教えたせいもあるけど、成長して余計に面倒見がよくなってしまった。
「鶴舞はけっこうモテるんだから、誰か彼氏でも作ってればいいのではないか?」
颯斗が提案してきた。そう、千代は実はモテる。
遠くから見る分には、おしとやかな大和撫子だし、実際大人っぽい美人顔。上級生や下級生に告白されることはかなり多かった。
「でもこっぴどく振りまくってるんだよねー、チー先輩は」
しかし千代は1人も告白を受けたことは無い。
「人聞きが悪いことを言うね。私は青少年達が道を迷わぬようにしているだけさ。私がフラフラしているから、守ってあげなきゃ的な世に言うつり橋効果みたいなものだ。私の面倒を見るなど、不可能さ」
「自分で言ってちゃ世話無いわね……」
「そもそも彼氏に気を使う気力など無いー。私に対して何かをしてもらうことに対して、それに見合う対価を返してあげられん。対等な関係性のない彼氏彼女関係など、向こうも嫌だろう」
千代の言いたいことも分からないではないのだ。正直千代と付き合ったら、ほぼ毎日ヘルパー状態なのだ。
それこそ本当の世話好きかおせっかいで、しかも対価を求めないとまでくるわけだ。そう考えると、桂って相当レアな存在よね……。
「私はあの偽者をお姉ちゃんにするくらいなら、チー先輩をくっつけますけど」
そして、最も問題なのは栄子だ。千代はまだ能動的には邪魔をしてこない……、というか能動的に行動できないからほっといても被害は少ない。
ただ、栄子は放置すると問題しかない。明らかに敵対しているから。
学年が違うからうかつに邪魔もできないし。
「あんたは人のことよりも自分のことを何とかしなさい」
「私は後輩だからいいんですー。1番そういうのは遅くてもー。人の心配してんなら、そんなイケイケな見た目をしてるのに、処女な自分をかんがみてくださいー」
ゴキッ!!
まぁ最悪こうしよう。千代と違って、頑丈だから言うことを聞かない場合は、これでいい。
この子も千代ほどじゃないけど、割とファンはいるんだけどな。南と比べると、お子様体型ではあるけど、従姉妹というより、姉妹レベルで顔は似てるから可愛いのに。
ただ、この子は見た目の時点でやっかいそうなのが伝わるから、千代と違って告白もされてないみたい。
桂にべったりなのもあるけどね。ある意味では千代以上に桂に依存してるかも。
「さて、処女で思い出したけど、今回の計画のミッションコンプリートの到達地点としては、桂の童貞を町子ちゃんが奪ったら完成とするわ」
「そこまでいかないと駄目なのか?」
珍しく千代が意見をしてくる。
「年頃の男女と到着地点としては、妥当でしょ。普通に付き合うだけなら、南と変わらないわ。その普通のお子様カップルから1歩抜け出して、大人の恋愛になってようやく南を卒業できると思うの。ついでに童貞も」
「桂の童貞はこじれた童貞だからな。確かにそれくらい必要なのかもしれない」
男の友人である颯斗の発言だと生生しいが、確かにただの童貞とは意味合いが異なるといえば異なる。モテないタイプの童貞と比べると、なまじ説得がしずらいからね。
「いてて……、その件について提案がありますけど!」
さきほど極めて気を失わせた栄子が目を覚まして、何か意見を言ってきた。まともな可能性は低いが、一応聞こう。
「要するに、先輩が童貞を卒業して、お姉ちゃんのことに対してふっきれればいいわけですよね」
「まぁそうね」
「それならパチモンよりも、先輩の全てを知り尽くして、一緒に何度も寝ている会長が適任ではないでしょうか!」
「却下……。アホな横槍は入れないで頂戴」
一応誤解の無いように言っておくが、寝るというのは本当に寝ただけだ。
桂の両親は今は海外で完全に家にいないが、中学生くらいのときから、家を空けることが多かった。
南の件で傷心状態になった桂に、できる限り桂の両親は家にいたが、それでもどうしても2人とも家にいられないことが多かった。
その時、私は家に呼んで、部屋に入れて、桂を抱きしめて寝てあげたというだけのことである。期間も中学1年生の春から、2年生の秋くらいまでのことである。週2くらいである。ただそれだけのこと。
私を頼ってくれるのは嬉しかったし、安心して寝てる桂は可愛かったけど、それだけである。本当に寝ていただけだ。
「何言ってんですか。槍を入れるのは先輩側で、私達は入れられる側ですよ」
「真面目な話をしてるときに下ネタは駄目よ」
「やりたいほうだいだな」
「あんたにだけは言われたくない」
「結果として、やーりぃ! みたいなことになるんだけど」
「三段オチはいいから」
いつ練習したのよこの3人。
「とにかく、あの2人のどちらかが無理といわない限りは協力すること! いいわね」
「へーい」
「まかせてくれ、何もしないけど」
「ヤです」
「ふーん、まだ逆らうの? この私に」
「これは信念の問題です! たとえ神が言おうとも!」
「じゃあ積極的じゃなくていいから、あのノートを出しなさい」
「あのノートとは?」
私が当たり前のように言うと、千代が首をかしげる。ああそうか、千代は知らなかったか。
「この子が桂についてまとめた情報が載ってるノートよ。初めのほうだと、南のことも書いてあるわ。ときどきそれを見ていろいろやってるわよね」
「……、あのノートですか……、ちょっと諸事情によりお見せできないというか、なんといいますか」
あら? 栄子にしては珍しく煮え切らないわね。あきらかに反対するか、イエスマンかどっちかなのに。
「あのノートのことだったら、あまり参考にならないと思うぞ。あれを読めるのは本人だけだ」
颯斗が謎のポーズを決めながら、説明してくる。
「一応持っているので、見ていただいたほうが早いです」
栄子がノートを差し出してきたので見る。あらこれは……。
「これは象形文字かしら?」
「……私にはアラビア文字に見える」
「日本語において、△に見えたり、☆に見える文字がある時点で、解読は不可能だ」
「お恥ずかしい……、字がへたくそなのを見せるのは恥ずかしくて」
栄子にも羞恥心はあったのね。もっと気にするところはあると思ったけど。
会議は踊ってもいないし、もちろん進んでもいない。……桂がいないと、ボケを止める人がいないから、本当に話がすすまないわねぇ。




