98.川上(せんじょう)に架ける橋?
森林地帯を抜けると、沃野が広がっていた。
一面、広大な麦畑だ。
草丈が勢いよく伸びた先端には、白くて小さな、かわいい花をつけている。
俺たちを乗せた馬車は、どこまでも続く、その麦畑の真ん中を進んでいった。
あれ以来、魔物は出て来なかった。
やがて、目の前にエンキドゥの流れが見えてくる。
河岸の土も、そして川底の土も真っ白なため、滔々と流れる水は青く、澄んでいる。
街道は、真っ直ぐに河岸へ向かっていく。
「うわぁー!あれ見て、セイヤお兄ちゃん!」
コリンが馬車の窓から、身を乗り出して、指をさして声をあげた。
「おお!すげえな!!」
「きれいですね。」
「みゃー!」
言われて、外を見た俺が驚いていると、アイリスも同じように感嘆の声を漏らした。
ついでに、ライアンも。
「ただの橋よ。」
「あたしは、ついこのあいだ、通ったばかりだから。」
一方、エルとスザンヌさんは、いたって平静だ。
街道が行き着く先、河幅が2000キュピ(1キロメートル)もあるエンキドゥに、石造りの巨大な橋が架かっていた。
はるか対岸には、絶壁のようにそびえ立つ、白亜の城壁が見える範囲いっぱいに続いている。
「あれが、王都イシュタル・・・。」
想像以上だ。
俺はその光景を見て、改めて異世界に来た実感がした気がした。
少なくとも、1ヶ月ちょっと前まで住んでいた、日本とは違うどこかだということは確かだ。
「驚くのはまだ早いわよ。」
スザンヌさんが言った。
橋の上は、馬車やラクダ、徒歩の人々でごった返していた。
その中へ、俺たちの馬車も突っ込んでいく。
「凄い・・。」
渋谷の有名な交差点の比ではない、例えていえば、山手線の朝のラッシュが近いだろうか?
馬車でさえも、人波に押し流されるように、対岸へと進んでいった。
そして・・・。
「「ひえ~~~!」」
俺とコリンが、眼前に扉が大きく開け放たれた、巨大な門を見上げて叫んだ。
なんという大きさだろう。
四頭立ての馬車が余裕ですれ違える幅があり、高さは10階建て、いや15階建てのビルに匹敵するだろうか。
ある意味、凄い技術力だ。
門の前には、ちょっとした広場のようなスペースがあって、10箇所ほどのイミグレーション窓口のようなものがあった。
王都内へ入る者はそこで身分と持ち物をチェックされ、出ていくものは持ち物だけをチェックされるようだ。
入る方の窓口が7つ、出ていく方は3つだ。
入る方が多いのにも関わらず、どの窓口も長い列が出来ている。
各種ギルドのギルドカードを持っているものは、それを提示すればチェックは完了みたいだ。
でも、カードを持っていないものはどうするんだ?
「コリンとアイリスは、どうすればいいんですか?」
俺は、スザンヌさんに尋ねた。
「大丈夫よ、専用の魔道具で基本的なステータスと犯罪歴をチェック出来るから。それに・・。」
「あ、ボク。カード持ってます。」
アイリスが、カードを取り出して見せてきた。
「そうなんだ、だったら大丈夫だね。」
コリンのステータスを偽装しておいて良かった・・。
「アイリスって、ヒタト国の冒険者ギルドに入っているの?」
「いえ、ボクは・・・神殿に仕えていたので、神職のカードです。」
「へええ~!・・・ねえ、スザンヌさん。そんなこと、ひとっことも言ってませんでしたよね?」
「あら、言わなきゃいけなかった?」
まったく。
くえないオバ・・オッサンだ。
こうして俺たちは、30分ほど並んで(意外と早かった)、無事に王都入を果たしたのだった。




