97.寝る子はよく育つ
闇から生まれるように、そいつが実体化した瞬間、不協和音が頭の中に響いた。
「くっ!」
俺は、思わず両耳を押さえて、その場で片膝をつく。
すると、背後で『ズサッ』という音がして、ほかの3人も同じように、膝をついたのが分かった。
魔物たちの気配はしない、どうやらみんな、掃討は終えていたらしい。
「セイヤお兄ちゃん、あれ!」
コリンの言葉で、俯いていた視線を上げる。
黒いローブのフードを、頭からすっぽりと被った奴が、空中に浮かんでいた。
手には杖のようなものを持っており、フードの奥の表情は全く見えない。
体型からして、男だろうか?
「誰だ?!」
ほかに良いセリフも思い浮かばず、ベタな言葉を言ってしまう。
だが、相手は何も答えない。
相変わらず、不協和音が鳴り続けている。
・・あっそうか、調べればいいんだ。
「・・ネクロマンサー。」
「「エッ!」」
俺の言葉に、エルとスザンヌさんが同時に声を上げる。
「ネクロマンサーが、こんなに膨大な魔力を持っているはずないわ。」
「ええ。」
「そうなのか?」
でも、ステータスにはそう表示されているんだけどなあ。
「僕たちが次々と消滅するから、何かと思えば、例のガキか。・・・それなりではあるが、まだまだだな。」
おもむろに、全身黒ずくめのそいつが、俺の方を向いて言ってきた。
ただそれは、通常の声ではなく、直接頭の中に聞こえてくるものだった。
「お前は何者なんだ?俺のことを、知っているのか?!」
「フッ、そんなことはどうでもよいではないか。・・おお、そちらのお嬢ちゃんは、まだ生きておったようだな。ガキと一緒にいるとは、面白い。」
今度は、エルの方を向いて、楽しげに言っている。
「なによ!あたしは、あんたのことなんか知らないわよ!」
「それも、どうでもよい。いずれにしても、これから愉しくなりそうだな。今日のところは、失礼する。また会おう!ふはははは。」
ネクロマンサー?は、一方的にひとりで納得して、現れた時と同様に、霧散するように闇に消え去ってしまった。
「どういうこと?あなたたち、アイツとお知り合いなの?」
ようやく、不協和音から解放されて、安堵の溜息を漏らしたあと、スザンヌさんが俺とエルの顔を見ながら言った。
「「知りません!」」
「そうお?向こうは、知っているみたいだったわよ?」
「あの~。」
そのとき、アイリスが、馬車から出てきておずおずとした感じで言ってきた。
「ボク、あの声に聞き覚えがあります。」
「エッ、ほんとに?」
みんなの視線が集まって、アイリスは顔を赤らめる。
「ハイ、ボクの故郷を乗っ取った奴らの中に、ああいう声の持ち主がいたような気がします。姿に見覚えはないですけど・・。」
声だけに、覚えがあるか・・・。
う~ん、今は考えるだけ無駄か。
材料が少なすぎる。
「とりあえず、もう襲っては来なさそうだし、早めに出発しましょうか?」
「そうね、そろそろ明るくなってくるし、ちゃっちゃと朝ごはん食べて、ここを引き払いましょう。」
俺の提案に、スザンヌさんが賛成してくれる。
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しばらくして、朝食の用意が出来上がった。
あたりに、肉の焼けるいい匂いが漂う。
「なあ、そういえば。ライアンは?」
俺は、みんなの顔を見回した。
一斉に、ある方向を指差す。
「ミャーあーああ。」
するとそこには、大きなあくびをしながら、馬車から降りてくる、ライアンの姿があった。
・・・大物過ぎる。




