92.ひとり上手と言わないで
「あのう、それで質問があるんですが、なんでスザンヌさんまで、この宿に泊まっているんでしょうか?」
あれから、結構大変だった。
突然の、ギルマスの交代。
しかも、国境での騒動の直後。
村長はいるけど、辺境の村では、政治的にも、経済的にも、特に防衛面でも最も重要な機関が、冒険者ギルドなので、その引き継ぎが、大変なのは十分に想像できる。
午後いっぱいかかって・・・いや、むしろその短時間で終えるのが驚異的なんだけど、引き継ぎが終了した。
『じゃあ、よろしくね。』のひとことで取り残された、ガイヤさんの抜け殻のような姿と、なぜか清々しささえ感じる、ほかのギルド職員の様子の違いに、ものすごい戸惑いを感じたのも束の間・・・。
そして、『月のらくだ館』である。
いまは、一階の食堂でみんなで夕食を食べながら、今後の旅について話していた。
そこには、俺たち3人に加えて、行く先の無い、アイリスもいる。
当然、宿のサリーさんやサルクさん、サニー&サムの双子もいた。
「でもさ、どうしてスザンヌさんも居るわけ?」
俺は、もう一度言った。
元ギルマスなんだから、自分の家くらいあるでしょ、普通。
何故、わざわざこの宿に泊まる必要があるのっていうことですよ。
「親睦を深めたいじゃない、これから一緒に旅をするんだから。」
そう言って、早々に確保した俺の隣に座って、しな垂れかかってくる。
ちなみに、コリンは俺の膝の上を確保していた。
何かをアピールしているようだ。
「あの、重いです。」
「あらごめんなさい。つい、癖で。」
どんな癖だよ!
「いいんですか?一旦、家に帰らなくて。」
「出張ばかりで、ほとんど帰らない家だから、別にいいのよ。持ち物は全部持ち歩いているし。」
あれ?もしかして、スザンヌさんアイテムボックス持ち?
流石は、Sランク級。
「そうですか、でも他にひとこと挨拶しておく人とかいるでしょう?」
俺は、自然に腰に伸びてくる、スザンヌさんの右手を払いよけながら言った。
「こんな歳まで独り身のあたしに、そんな人がいるわけないじゃない!(そりゃあ、いいなと思うオトコくらいはいたけど・・)」
なんか、勝手に拗ねているんだけど。
最後の方の独り言は、聞いてないし。
「・・・分かりました。じゃあまず、これからの行き先なんですけど。エル、おススメとかある?俺、あんまりこっちの国々のことに詳しくないからさ。」
「そうね、とりあえずは王都イシュタルに向かったら?行ったことないんでしょう?」
いい加減、スザンヌさんの件は、放っておくことにして、俺はエルに話しかけたのだった。
「そうね、あたしも一応、ハルバト国本部に直接報告したいし。いいと思うわ。」
放っておこうとしたのに、話に入ってくるし。
「そうだな、一度、王都っていうのを見てみたいしな。コリン、それでいいか?」
「うん!セイヤお兄ちゃんの行くところなら、何処でもいい!!」
コリンは、満面の笑顔で右手を上げた。
「アイリスも、いいかな?」
「え?あ、ハイ。ボクもいいと思います・・・。」
エルの隣に座っていたアイリスは、俺に振られて、俯いてた顔をあげ、小さく頷いた。
ん?あんまり気が進まないのかな?
「嫌なら変えてもいいんだぞ?」
「だ、大丈夫です。ボクも、セイヤさんの行くところへ、行きたいですから。」
「分かった。じゃあ、行き先は、王都イシュタルということで。」
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その後は、お世話になった『月のらくだ館』の人たちにお礼を言って、お別れ会のようなものをやったのだった。
ところが、その会の最中に、重大なことが判明したのだった。




