91.みなしごハッチ?
「それとね、もう一つ条件があるの。」
まだあるの?
いい加減、もうランクアップはいらないから、帰してほしいと思ってきた。
「ガイちゃん、おねがい。」
スザンヌさんが、ガイヤさんの方を向いて言った。
「分かりました。」
ガイヤさんが一礼して、ギルド長室を出て行った。
なんだ?
ガイヤさん、どこへ行ったんだ?
エルの顔を見ると、無言で首を振る。
「あの、スザンヌさん?」
「ごめんね、ちょっと待っててね。」
なんだろ、すごい不安感だけしかないんだけど。
スザンヌさんは、呑気にライアンの喉を弄っている。
ゴロゴロ喉鳴らしているし・・。
完全に、子猫じゃんか。
「お待たせいたしました。」
ガイヤさんがノックをして、部屋に戻ってきた。
すると、その後から小さな子が続いて入ってくる。
「こ、こんにちは・・。」
そこには、ピンクに近い赤い髪を三つ編みにした、コバルトブルーの瞳の女の子が立っていた。
「アイリスちゃん!もう、身体は大丈夫なの?」
エルが駆け寄って、手足に触っている。
「は、はい。おかげさまで、なんともないです。」
頬を少し赤らめながら、アイリスは言った。
「良かった!」
「セイヤお兄ちゃん、あの子はだれ?」
コリンが、聞いてくる。
「ああ、コリンはまだ会ってなかったか。あの娘は、ニンフルサグ村で助けた娘で、アイリスって言うんだ。」
「そうなんだ!アイリスちゃん、こんにちは。コリンだよ。よろしくね。」
コリンも、彼女のところに駆け寄って、手を取った。
「う、うん。よろしく。」
ほんとにコリンと殆ど変わらない身長で、2人が並ぶと姉妹みたいだ。
「あのう、それでスザンヌさん。なんでここに、アイリスを?」
俺は、女の子たちの様子を、慈愛に満ちた表情で眺めているスザンヌさんに、尋ねた。
「それはね、あの娘にお願いされたからなの。」
「おねがい、ですか?」
「アイリスちゃん、セイヤくんに自分で言ってみなさい。」
スザンヌさんが、コリンに両手をブンブン振り回されていた、アイリスに声をかけた。
すると、アイリスとコリンが一緒に、こちらを振り向く。
「あ、あのう・・ボク。・・・ぼ、ボクも・・セイヤさんと一緒に旅に行きたいの・・・。」
「ええっ!」
また、わけのわからない事が増えたぞ。
俺は、慌ててスザンヌさんを見る。
相変わらず、顔がデカイ・・じゃなくて。
「どういうことですか?」
「アイリスちゃんにね、ニンフルサグ村であった事を聞いたあと、村長のところに連れて行ったんだけど。村長が言うには、この娘の服装は、ヒタト国のものだって言うのよ。」
そうなんだ、そういえばなんとなく、冒険者とかの服ともちょっと違うし、かといってハルバト国の普段着とも違うかな?
どちらかというと、軍服っぽいというか・・。
「けれど、この娘・・・ご両親とかの記憶が無いっていうの。村長は、昔どっかで見たような気がするっても言ううんだけど・・。」
そう言えば俺、村長に会ったことないけど、たぶん結構な歳なんだろうな。
でも、昔って言っても、アイリスの年齢を考えたら、そんなに昔ってことは無いよね。
国交が途絶える直前ならわかるけど、そんな最近で、顔を忘れるっていうのもおかしいか・・。
「じゃあ、アイリスには、帰る先が無いという事ですか?」
「そうなのよ、国交の無いヒタトに送り帰すわけにもいかないし、かと言ってニンフルサグ村の生き残りは、この娘だけだし。・・だから、これからどうしたいか、本人に聞いたのよ。」
「そしたら、俺の名前が出たと?」
スザンヌさんとアイリスが、同時に頷いた。
「ボク・・・ダメ、ですか?」
コバルトブルーの瞳に、涙をいっぱいに溜めている。
エルとコリンを順番に見ると、2人とも頷いている。
「ふう・・・分かった。一緒に行こう。」
「「「やったー!!!」」」
なんで、スザンヌさんまで両手を上げて、喜ぶのかなぁ?




