88.いいえ私はさそり座の・・・
ギルマスの執務室は、ギルドの建物の最上階にあった。
目の前には、重厚な木製の大きな扉がある。
「失礼いたします。エルさまとセイヤさま、お連れさまをご案内しました。」
ガイヤさんが、扉のノッカーを鳴らして、中へ声を掛けた。
「ガタッ!」
なにやら、部屋の中から大きな物音がした。
「ご、ご苦労さま。少~し待ってね。」
ん?妙に声が甲高いような気がするんだけど。
エルの方を見ると、なぜかこめかみがピクピクしている。
・・・ガイヤさんは・・なんで、額から汗が?
「お待たせ。いいわよ、入って。」
たっぷり1分ほどして、ようやく中から声がした。
「失礼いたします。」
ガイヤさんが、ゆっくりと扉を開ける。
「「お邪魔しま~す。」」
ガイヤさんに続いて、俺とコリンはそう言いながら執務室の中に入って行った。
エルは無言で入ってくる。
ライアンは、コリンに抱かれている。
室内はかなり広くて、40畳くらいはあった。
内装は、白で統一されている。
大きな姿見と化粧台、白いソファーセット、壁際には書棚や食器棚がある。
装飾には、金色の飾りがふんだんに使われていた。
・・・何というか、ベルサイユ?的な?
そして目の前には、大きな執務机。
机に向こうには、ウエーブのかかった、金髪の人物が、後ろを向いて座っている。
ゴツイな・・・肩幅が半端ない。
「ギルド長、Aランク冒険者のエルさまと、Cランク冒険者のセイヤさまです。」
後ろ姿に、ガイヤさんが一礼して言った。
すると、金髪の人物は、椅子をくるりと回してこちらに向いてきた。
(この演出いるのか?)
「わざわざ来ていただいて、ごめんなさいね。ギルマスのスザンヌよ。」
ニッコリ微笑んで、首を傾げた。
で、でかい・・・顔が。
女、なのか?
「エルちゃんも、お久しぶりね。元気してた?」
立ち上がって、机のこちら側へ回り込んで来ると、エルの前まで来て、その小さな両手を自分の大きな両手で包み込むように持って、満面の笑みで言ってくる。
「ん、元気。さっきまでは。」
エルは、完全に表情を消して、答えている。
ただ、こめかみの震えが酷くなっている気がする。
それにしても、でかい・・背も。
「で、こちらが噂のセイヤくんね。初めまして、スザンヌよ。よろしくね。」
「は、はい。」
同様に、俺の手をそのゴツゴツした大きな手で握ってくる。
濃いアイシャドウに付けまつげ、瞳の色は青色の大きな目で、ニッコリ微笑む。
真赤な口紅を塗った大きな口の周りが、うっすらと青い。
ヒゲ?
金髪なのに、青?
・・・オトコ、ですか?
「まー、随分と可愛らしいお顔をしているわねえ。こんな細い腕で、ワイバーンを殺っちゃたの?」
「あ、あの。」
手を離してくれないんだけど。
顔が近いし。
「あら、私があんまり美しいから、見とれちゃった?ウフフ、か~わいい!」
「うわぁ!・・ぐっ。」
握られた手を、力強く引っ張られて、いきなり抱きすくめられた。
ものすごい力で、ちっ息しそうになる。
「セイヤお兄ちゃんを、いじめちゃダメ!」
その時、コリンが小さなファイヤボールを、ギルマスの大きな背中へ放った。
「あら、ごめんなさい。可愛い子を見ると、つい抱きしめちゃうのよ。・・でも、部屋の中でこんなもの撃っちゃダメよ。」
ギルマスは、向かってくる火の玉の方を見ずに、片手でそれを受け止めると、まるで紙屑のように簡単に握りつぶしてそう言った。
そして、コリンの方を向いて、大きな目でウインクをした。
一瞬、バチリと音がしたような気がした。
「あの、ギルド長。そろそろ、本題を。」
ガイヤさんが、恐る恐る言ってきた。
「ガイちゃん、そうじゃないでしょ。スザンヌって呼びなさいって、いつも言っているでしょう?」
「も、申し訳ありません。スザンヌさま。」
ガイヤさんのことばで、ようやく俺は解放されて、ギルマスは自分の机へ戻った。
「で、その勇敢なかわいらしい子は?」
「コリン!この仔はライアン!」
コリンが、元気に答える。
「そう、コリンちゃん元気ねえ。ライアンちゃんていうの?変わった仔ね。」
「ライアンは、俺の使役獣なんです。」
微笑むギルマスに、そう答えた。
「このままじゃなんだし、あちらのソファーへ移動しましょうか。」
俺の答えにうなずいて、ギルマスはソファーセットを指した。




