78.敗者は俺
エア村の城門が見えてきた。
実際は、途中一晩だけ野営をして、ほんの2日離れていただけなのに、やけに懐かしく思えてくる。
門の前には、小さな人影が一つ。
その前に馬車が止まった。
俺たちが馬車から降りると、茶色いかたまりが、俺の懐めがけて飛び込んできた。
「・・・ただいま、コリン。」
無言で額を俺の胸にこすりつけてくるコリンに、俺は優しくそう言った。
「・・お・・り、・・お・えり、・・おかえりなさい!」
ケモミミがふるふる揺れる頭を、ぽんぽんと叩いてやると、コリンはそう叫んで強く抱きついてきた。
「迎えに来てくれて、ありがとな。」
「うん・・。」
胸に顔を埋めたまま、うなずくコリン。
「みゃゥ!」
「エ?」
そのとき、俺の背後からライアンの可愛い鳴き声が聞こえた。
コリンが顔を上げて、左右を見ている。
「ミャ~ぅ!」
「あっ!」
どうやら、エルが抱いているライアンに気づいたようだ。
すぐに、俺の懐から離れて、そちらへ駆けていく。
「か~あいい~~!」
ん~~・・・なんだろう?この敗北感は・・・。
「コリン、あたしも帰ってきたんだけど?」
「ん、おかえり~。」
敗者がもう一人いたみたいだし、まあいいか・・・。
コリンは、エルからライアンを奪いとるように受け取ると、頬ずりしながら抱きしめていた。
「セイヤさん、我々は、ギルドへ報告に行きますので。」
俺たちの様子を、黙って見守っていてくれたガイヤさんが、言ってきた。
「分かりました。俺たちは、ひとまず宿に戻ります。」
俺は、初めての討伐遠征で、精神的に結構疲れていたし、いろいろなことが有り過ぎたこともあり、そう答えた。
「そうですか・・・たぶん、あとでギルドからお呼びすると思いますので、そのときはよろしくお願いします。」
「は、はい。」
呼び出し?
なんだろう・・・。
「あっ!アイリスは?」
「今回の件の証言をお願いしないといけませんし、なにより今後のこともあります。まずは、ギルドへご一緒していただき、そのあとに村長にもご報告します。」
「そうですか。・・・でも、なるべくあまり無理はさせないであげてください。」
「気をつけます。では、のちほど。」
そう言って、ガイヤさんたちは再び馬車に乗り込んで、門をくぐっていった。
馬車に乗り込む前に見えた、アイリスの不安そうな顔が胸に引っかかった。
「さあ、俺たちも帰るぞ。」
いつの間にか、二人してライアンをいじり倒しているエルとコリンに声をかけた。
「「ふわぁ~い。」」




