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77.この世で最強は?

「おそい!」



 地上に戻ってくると、入り口の前で待ち構えていたエルに怒られてしまった。



「スイマセン。」


「ミャぅ!」



 頭を下げる俺の足元で、ライアンが声を上げた。



「なにこの子ぉ?!」


「か~~わいい~!」


「たしかに可愛い・・・。」



 その声に全員の目線が、下方へと向かい、女性たちの歓声があがった。


 最後のカリナさんの、意外なつぶやきに、ちょっとびっくりしたけど。



「なんか、ついてきちゃいました。」



 俺は、右手で頭の後ろを掻きながら言った。



「うふフフフ。」


「くるるるる。」


「ん?」



 エルがしゃがみこんで、ライアンを抱き寄せて、喉を撫でている。


 すごい幸せそうな顔をしている・・・両方とも。


 いつも無表情なエルの意外な表情に、驚いてしまった。



「あのう・・・。」



 遠慮がちな声が、みんなのうしろから聞こえてきた。



「あっ、ごめん!身体の方は大丈夫?」


「は、はい。おかげさまで大丈夫みたいです。」



 ドワーフの娘のことを、すっかり放ったらかしにしてしまった。



 あらためて彼女を見ると、ピンクに近い赤い髪を三つ編みにしていて、身長110cmくらいしかない。


 見た目は、コリンと一緒の年齢くらいか?


 目は、透き通ったコバルトブルーの瞳。


 肌の色は、薄い褐色だ。


 服装は、ショートスカートをはいて、肩当てなど各所を保護する革製の防具を身に着けているだけであったが、防具には貴金属の繊細な装飾が施されており、安物ではないことが分かる。



「あなたのお名前は?」



 ガイヤさんが尋ねた。



「アイリスです・・・。」



 アイリスは、うつむいて答えた。



「他に一緒にいた人とかはいないの?」



 俺は、身をかがめて顔を覗き込み、聞いてみた。


 アイリスはうつむいたまま、かぶりを振った。



「それでは、地下室に一人で?」



 ガイヤさんが重ねて聞いた。



「・・・。」



 アイリスは、相変わらずうつむいている。




「・・・ワイバーンたち魔物に村が襲われて、自警団のひとたちが、ボクを神殿に連れてきてくれたの。」



 しばらくして、震える小さな声で、アイリスが話し始めた。



「村のあちこちが燃え上がって、建物がつぎつぎに壊される大きな音が響いてた・・・。」



 ライアンを抱いたまま、エルがアイリスを見つめている。



「司祭様は、もうすぐ冒険者ギルドの人たちが来てくれるはずだから、それまでの辛抱だっておっしゃってた。」



 腕を組んで聞いていたダンさんが、片眉をピクリと上げた。



「でも、神殿にまで魔物たちが押し寄せてきて・・・・。」



 アイリスは、声だけでなく、肩も震わせながら言葉につまった。


 俺は、自然とその震える肩に手を添えて、嗚咽をし始めたアイリスを抱き寄せていた。



「司祭様は、祭壇の下の地下室の入り口へ、ボクを押し込んでおっしゃたの!」



 アイリスは、俺の胸に顔を押し付けながら、話を続けた。



「『せめて、あなただけでも、助かってください。』って!」



 激しく嗚咽するアイリスの頭を、俺は優しく撫でてやった。



「ごめんな、辛いことを聞いてしまって。」



 俺は、撫でながら小さくつぶやいた。


 すると、アイリスはわずかに頭を振った。




********




 やがて、アイリスは落ち着きを取り戻し、エルから受け取ったライアンに、頬の涙跡をペロペロと舐められて、ようやく笑顔が戻った。


 その様子を見て、ガイヤさんが、他に生存者がいないか確認するようにみんなに指示をだした。



 しかし、結局アイリスの他に生き残ったものは見当たらず、エア村へ戻ることとなった。


 

 馬車を停めていた場所まで戻り、見張り役の冒険者のひとたちと合流すると、一路、村へと向かった。


 当然帰途は、ライアンは人気者で、馬車の見張りチームだった、斥候の山猫の獣人のお姉さんなんか、デレデレになっていた。



「エヘヘ。」



 ・・・そしてここにも、デレデレさんが一人。



「エルって、そんなに動物好きだったんだ?」


「ライアンは、とくべつ!」



 緩みっぱなしの顔で、白いモフモフのかたまりを、抱きしめていた。



「この世に、モフモフに優るものなし・・。」



 カリナさんが、賢者の表情でボソリと言った。

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