72.ここ掘れワンワン
元気よく飛び出していったものの、村の中に入ると自然と歩みは遅くなった。
他の人たちも同様に、みな無口になっていた。
瓦礫の中に残る何かが激しく燃えた跡や、血痕に、その時の状況が見て取れる。
せめてもの救いなのは、被害にあった人々の遺骸が、部分といえども見当たらないことだった。
ただ・・・恐らくそれは、あのワームたちが全て残らず貪り喰った結果であろうことは、誰も口にしなかった。
見渡す限り、廃墟となった瓦礫の山のあちこちから、白い煙が立ち上っていた。
先頭を行くエルは、無言で何かを必死に捜しているようだった。
「エル、足元もよく見ないと危ないぞ。」
俺の言葉にも返事をセずに、黙々と進んでいく。
・・・と、目の前にひときわ大きな瓦礫の山が現れてきた。
「あっ、エル!!」
駆け出していくエルを、慌てて追いかけた。
エルは、その大きな瓦礫の塊の前で立ち止まると、じっとしている。
「どうしたんだ?」
立ち止まったエルに追いつくと、全く動かなくなった彼女に声をかけた。
「シッ!」
エルは、真剣な眼差しで、形の良い唇に人差し指を当てた。
「・・・・て。・・す・・て。」
「あっ!」
いつの間にか、俺の隣に立っていたミーシャさんが、声をあげた。
「どうしたんですか?」
「シッ!聞こえない?」
「えっ?」
言われて、俺は耳をそばだてた。
「・・すけて。・た・す・け・て・・。」
「あっ!」
瓦礫の中から、かすかに声が聞こえてきていた。
俺はすぐに、空間把握を展開した。
・・地上部には、何も映らない。
「・・・地下に何かいますね。人・・・ドワーフ?」
地下数メートルの所に、反応があった。
ステータスを見ると、結構やばい状態のようだ。
「セイヤさんは、探査か索敵のスキルを持っているんですか!?」
ガイヤさんが驚いたように言ってきた。
「ま、まあ・・・そうですね。」
「じゃあ、なんでワイバーンの襲来に気づかなかったんだ?」
カリナさんが、ボソリとつぶやいた。
「す、すいません。戦闘が終わったと思って油断してました。」
「ま、結果的に倒してくれたんだ。善しとしようぜ。」
肩を落とす俺を、ダンさんがフォローしてくれた。
「それより、早く助けなきゃ。」
シンさんの言葉に瓦礫の山の方を見ると、すでにエルが片端からその山を、かき分け始めていた。
「エル、あまり乱暴にやると崩落してしまうかも知れないよ。みんなで手分けして、慎重にやろう。」
「!・・・分かった。」
俺たちのさっきの会話も耳にはいらなかったのか、一瞬ハッとしたエルは、夢中で動かしていた手を、ようやく止めて、うなずいた。
「多分こっちの方です。」
俺は、空間把握で反応があった箇所から、瓦礫をどける範囲をみんなに指示した。
すると、全員がその範囲を、突然大きく崩れたりしないように、慎重に瓦礫をどける作業を始めた。
「あれ、これは?」
しばらくして、大きな日干しレンガの塊をどけたガイヤさんが、声を上げた。
「なんかあったんですか?」
みなが、ガイヤさんの周りに集まった。
「ほら、これ。」
ガイヤさんが指差した方向には、白い綺麗な石灰岩の石版があった。
石版には、一つの紋章が大きく彫り込まれている。
「ニンフルサグ神の紋章だ。」
ガイヤさんが、静かに言った。
「ここは、神殿だったのだ。」
カリナさんが、低くつぶやく。
「ん?」
ミーシャさんが、しゃがみこんで細かい瓦礫をどけ始めた。
「あ!・・・穴だわ。」
「「「「え!!!」」」
一斉に全員が、ミーシャさんの手元を覗き込んだ。
1キュピ(50cm)ほどの空間が、地面に口を開けていた。
すぐに、みんなでその周りの瓦礫をよけ始める。
「階段だわ!」
エルが声を上げた!
3キュピ(1.5m)四方の、四角い入り口と、地下へと続く急な階段が姿をあらわしていた。
「早くしないと!」
エルが、ガイヤさんの方を見て言った。
さっきまで、時々聞こえてきていた声が、ほとんどしなくなっていたのだ。
「分かっています。でも、中の様子が分からない状況で、全員が入るわけにいきませんし、地上部の見張りも必要でしょう。ここは、わたしとエルさん、セイヤさんの3人で行きましょう。」
「分かった。」
「分かりました。」
全員がうなずくのを確認すると、ガイヤさんを先頭に、俺たち3人は穴の中へと降りていった。




