70.バーン、バーン、バン
今さらですけど、タイトルに意味がある場合とない場合があるので、あまりお気になさらないように、お願い致します。
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--ワイバーン。
その姿は、巨大な蜥蜴のようにも見える。
赤銅色をした硬い鱗に覆われた身体。
鋭く、大きな鉤爪を備えた四肢。
前脚と一体となった大きな翼。
ドラゴンの亜種、劣化版などと言われることもあるが、歴としたSランクの魔物である。
先ほどの攻撃は、長い尻尾の一振りだったようで、地面には筋状の深い溝ができていた。
完全に、俺をターゲットにしているな・・・。
紅の混じる金色の大きな目で、ジッと見つめてくる。
爬虫類特有の縦に長い瞳のせいで、喜怒哀楽はわかりづらい。
「グギャーオ!!」
一声鳴いて、またしても火炎を吐いてきた。
俺は、飛び退りすさりながら、特大のウォーターボールをお見舞する。
「「「セイヤ!」」」
「「セイヤさん!」」
エルやガイヤさん、銀狼のメーバーが、一斉に叫んだ。
火炎と水球がぶつかり、盛大に水蒸気を撒き散らしながらも、水球の勢いが勝ってドンドン押し返していく。
「大丈夫!」
俺は、エルたちにそう返すと、水球がワイバーンの巨大な顔面にぶつかる寸前で、サンダーバレットと放った。
それと同時に、ショートソードに氷属性の魔力を付与して、跳躍によって一気に詰め寄っていった。
水球が顔面にぶつかって四散し、その視界を妨げた直後に、強烈な雷撃がワイバーンの濡れた身体に直撃する。
反撃に移ろうとしていた身体は硬直してしまい、懐に飛び込んできた俺の動きに対応できなくなった。
「いっくぜーーっ!!」
俺は、鱗が比較的薄くて軟らかい、首の内側部分を十文字じゅうもんじに切り裂いた。
思いの外抵抗の少ない手応えで、銀色に光る刃がワイバーンの首に吸い込まれ、傷口が大きく開いていく。
「・・・・・!」
咆哮をあげようとしたワイバーンだったが、もはやそれは叶わなかった。
ーーそして、切り開かれた傷口から全身へと、白色化が瞬く間に広がっていく・・。
完全に全身が霜で覆われて、白っぽく変色した瞬間、ワイバーンの身体から浮力が無くなり、地面へ向かって落下していった。
「ガッシャーーーン!!」
地面に衝突した瞬間、ガラスが砕けるような音がして、ワイバーンの身体は粉々になった。
着地して、バックステップで落下地点から離れた俺は、四方八方に飛び散る破片に、片膝をついて、右腕をかざして頭部をを守る。
・・・・数十秒後、あたりに静寂が戻るのを待って、俺はゆっくりと顔を上げた。
「セイヤ!」
エルが駆け寄ってきて、飛びついた。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、ああ。このとおり、大丈夫みたいだ。」
俺は、立ち上がって手を広げてみせた。
「良かった!」
エルは、天使のような笑顔で言った。
めちゃくちゃ、カワイイ・・・。
「あ、ありがとう。」
俺は、あまりの顔の近さと、その可愛さで、ドギマギしながら何故かお礼を言っていた。
「おう、お二人さん。仲が良くて、イチャイチャするのは構わんが、いつまでそうしている気だい?」
銀狼のシンさんが、ニヤニヤ微笑いながら、腕を組んで言ってきた。
「「え?」」
俺とエルが、顔を見合わせる。
「「あっ!」」
抱き合ったままの状態だったのに気づき、慌てて離れた。
他の冒険者たちも、微笑っている。
「まあ、ご無事で何よりでした。・・それにしてもセイヤさん、あなたはいったい・・・。」
ガイヤさんは、ギルド職員としては冒険者に対して『様』付けだが、ギルドの外では『さん』呼びだ。
--そんなことはどうでもいいが、やっぱり、つい1ヶ月前に冒険者登録をしたばかりの俺が、Sランクのワイバーンを、1人で倒してしまったことに、戸惑いが隠せないようだった。
「ま、いいじゃない。これで、依頼は完了よね?」
エルがいつもの表情に戻って、まだ何かいいたげなガイヤさんに言った。
「・・・いや、この先に最後の村があるはずですので、そこの様子を確認して完了です。」
ガイヤさんは、緊張した面持ちでそう言った。




