67.ごたごた、ゴタゴタ
じつは、俺が必要以上に馬車の中で、気を使っていたのは理由があった。
まず、俺とエルが二人でパーティーを組んで、討伐依頼に行くというと、コリンが自分も一緒に行くと騒ぎ出した。
だが、今回はさすがに他の冒険者やパーティーがいるので、冒険者登録もしていない、ましてやまだ5歳の子供を連れて行くわけにはいかない。
たっぷり数時間をかけて、説得した。
その結果、『必ず帰ってくること』、『帰ってきたら二人でデートに行くこと』、『今回のパーティーは仮で、コリンが冒険者登録したら、正式なパーティーを組むこと』の3つを約束させられて、ようやく納得してもらったのだった。
「コリンは、いい子にしてちゃんと待ってるから、早く帰ってきてね。」の言葉に見送られて、朝イチでパーティー登録するために、冒険者ギルドへ向かったのだった。
ギルドに到着すると、エルと二人でパーティー登録用の窓口へ並んだ。
窓口にはすでに2組ほどが並んでいたので、その後ろについた。
すると、なにやらギルド内がザワザワしだした。
遠くの方では、「なんであんな奴と?」とか「あのエルさまが、パーティー!?」とか、ささやいているのが聞こえてくる。
「なあエル、なんかみんながこっちを見ている気がするんだが?」
中には、指を指しているやつもいる。
「べつに気にしなくていい。」
「いや、でも主に俺のこと睨んでいる人が殆どなんだけど・・。」
動揺する俺をよそに、エルは、前を向いたままだ。
「おう、アンチャン。」
「だれの許可をもらって。」
「エル様と。」
「「「一緒にいるんだ?」」」
大・中・小もしくは、デブ・ガリ・チビの、絵に描いたようなチンピラ風の3人組が、声をかけてきた。
・・・・ここで、テンプレくるかあ!
ずいぶんと長かった気がするけど、なんか感動するなあ・・・。
「感動・・。」
「「「ああん!?何言ってんだ、この坊主!」」」
まずい、心の声が漏れてしまった。
「あ、いや。なんでもありません!な、なんでしょうか?」
「だから、なんで。」
「愛しのエル様と。」
「一緒にいるんだって。」
「「「言ってるんだよ!」」」
3人が同時に、汚い顔を近づけてくる。
「な、なんでって。パーティー登録をしようと思って・・。」
俺は、両手を前に突き出して、近づいてくるのを必死で阻止する。
「はあーーっ?!」
「パーティーを。」
「組むだあーーっ!?」
「「「1万年早いわ!!」」」
デブが、俺の胸元を掴んでくる。
「ちょっ、やめてください!エルが組もうって言ってくれたんですよ!」
「んなわけ。」
「あるはず。」
「ねえだろ!」
「「「ねえ、エル様!!」」」
俺を含めて4人が一斉に、エルの方を見た。
「そうよ。」
「「「「ほら!・・・・ん?」」」」
4人で顔を見合わせて、もう一度エルを見る。
「「「「どっち?」」」」
「だから、あたしが組もうって言ったの。」
「・・・ほら。」
「「「えーーっ!」」」
俺が、両の手のひらを上に向けて、肩をすくめると、3人は驚愕の声を上げた。
「いや、俺たちは認めねえぞ。」
「確かお前はまだEランクのはずだ。」
「そんなペーペーのド素人が。」
「「「Aランクのエル様と、パーティーなんて認めねえ!」」」
そしてそう叫ぶと、3人同時に殴りかかってきた。
「え、エルどうしよう!?」
俺は、パンチを躱しかわしながら、平然と列に並んでいるエルに尋ねた。
「やっちゃえば?」
「へ!?い、いいの?」
「いいんじゃない。」
いいのかな?
え~と、こいつら何ランクだっけ?
「くぅ~!ヘラヘラひとのパンチを躱しやがって。」
「このDランクパーティー。」
「『ひげサソリ団』様を。」
「「「馬鹿にする気か!」」」
おー、ご丁寧に教えてくれたぜ。
Dランクなら格上だし、少し手加減すればいいかな?
「すみません。じゃあ、躱さないでいきますね。」
俺は、デブの右ストレートを右の手のひらで掴んで止めると、手首のスナップを効かせて半回転させた。
すると、その巨体が錐揉み状に回転しながら浮き上がり、俺が軽くひと押ししただけで、そのまま水平に吹っ飛んでいった。
一方その動作と同時に、ガリが放ってきたボディブローを左手で下方に弾いて、前のめりになったガリの顔面に、その左手で裏拳を打ち込んだ。
するとガリは、「グヘッ!」と変な声を発しながら、仰向けに倒れ込んでいった。
さらに、チビが俺の脚を狙って、足払いを掛けてきていたのを直前で躱し、そのまま一歩踏み込んで、チビの顎をつま先で蹴り上げた。
チビは、綺麗な放物線を描いて10キュピ(5m)ほど飛んで、数回バウンドして止まった。
・・・・それはほんの、数十秒の出来事だった。
騒ぎが始まる前からこちらに注目していた、ギルド内の誰もが、動くのを止めていた。
「セイヤ、あたしたちの番よ。」
感情の無いエルの声が、静寂を破った。
その途端、示し合わせたように、何事もなかったかのように、全員が動き出した。
「あ、ああ。」
俺は、慌ててエルの許へ戻っていった。
背後では、どこからともなくガタイの良いギルド職員が数人集まってきて、『ひげサソリ団』の3人組をギルドの外へと引きずって行った。
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「パーティー名は、いかがいたしますか?」
受付の人が、聞いてきた。
「どうしようか?」
俺は、エルに尋ねた。
「セイヤが決めて。」
「いいのか?」
エルがうなずく。
どうしよう・・・・。
「『ジ・アース』・・。」
「『ジ・アース』で、ございますか?」
「はい、『ジ・アース』でお願いします!エル、いいかい?」
「セイヤがいいなら、それでいいわ。」
「承知いたしました。『ジ・アース』で登録させていただきます。」
やっぱり、故郷を忘れたくないっていうか・・・なんかね。
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・・・そんなわけで、出発前から色々と、ゴタゴタが続いていて、なるべく穏便にゆくように、気を使っていたのだった。
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「ねえ、セイヤ。」
「ん?」
「『ジ・アース』って、どういう意味?」
「俺の故郷の名前さ。」
「・・・そう、いい名前ね。」




