64.鉄分不足は貧血になりますよ
「「ただいま~!!」」
「「「おかえり~!!!」」」
いつものように、『月のらくだ館』に帰ってくると、サムとサニーの兄弟とサリーさんが迎えてくれた。
「あれ、エルは?」
「エルちゃん?今日はまだ、帰ってきてないわねえ。」
「そうなんだ・・。」
最近は、隣国のヒタトとの国境付近で、やたらとBランク以上の魔物が出現していて、Aランク冒険者のエルは、その討伐依頼のため他のCランク以上の冒険者と遠出しており、帰りが遅くなることが多かった。
「エルお姉ちゃんご飯に間に合うかなぁ?」
「大丈夫だと思うぞ。」
心配そうな顔をする、コリンの頭を撫でた。
「それにしても、ヒタト国って、どういう国なんだろうな。」
世界知識を使って・・・。
「昔は、ドワーフの国だったんだ。」
突然、うしろから声をかけられた。
振り向くと、シカルを持ったサルクさんが立っていた。
ジョッキを持つ腕は、筋肉隆々だ。
「サルクさん行ったことあるんですか?」
「ああ、若い時にな。冒険者だったんだ。」
そういえば、サリーさんがそんなこと言ってたっけ。
「だが、何年か前に突然、どこからか来た奴らに乗っ取られてしまい、今はこの国だけじゃなく、他のどの国とも、国交を絶ってしまった。」
「乗っ取った奴って、人族ですか?」
「はっきりとは分からん。ただ、魔物を操っているらしい。」
「じゃあ、国境付近に出る魔物って、もしかしてヒタトから?」
「かもしれん。」
そろそろこの世界に来て一ヶ月経つし、他の国を巡る旅に出ようかなと思ってたんだが、隣のヒタトに行けないとは・・・。
「魔物も迷惑なんだが、ヒタトと交易できないと、みんなメチャクチャ困るんだよ。」
「どうしてですか?」
「ヒタトは鉱物資源が豊富で、鉄器を量産できる唯一の国なんだ。」
なんでも、これまで各国は、ヒタトからの金属製品に頼っていたらしい。
ところが数年前、どこからか魔物を率いた者がやってきて、ドワーフの王を殺し、国を乗っ取った。
そして、元々人口の少なかった、国民はどこかに消え失せた。
各国に移り住んでいた、ドワーフたちは助かったので、その地で細々と産出される鉱物を使ってやりくりしているのが、今の現状だそうだ。
「まったくひどいもんだぜ、調理器具一つ取っても、新調しようとすると値段がバカ高くなっていやがる。」
サルクさんは、そう言ってぼやいていた。
「ただいま。」
「「「エルお姉ちゃん、おかえり~!!!」」」
その時、エルの声が聞こえて、ちびっこ3人が笑顔で迎えた。
「エル、おかえり。お疲れ様。」
「別に疲れてないわ。」
相変わらずそっけない。
「そ、そうですか。・・今日は、どんな魔物が出たの?」
「なんか今日はデッカイのばっかだった。サイプロスとかゴーレムとか。なかなか倒れないから、めんどくさいのよね。」
機嫌、悪いのか?
「それより、ご飯食べましょ。今日はなに?」




