57.コンコンコン
コンコンコンコンコン!
小気味いい音が、空き地に響いている。
ここは、エア村のメインストリート大通り沿いからはだいぶ離れた、村の西端。
昔は、貴族の屋敷があったところだ。
今は、ただ広い空き地があるだけ。
その空き地に、2つの小さな人影があった。
先ほどから、小気味いい音をたてていたのは、この2人だった。
カンカンカンカン、カン!
「コリン!あんたどうして、そんなに出来るのよ!!」
打ち合ったあとに、コリンの横払いを、ジャンプしてかわした後、空中で前方に一回転して着地したエルが、振り向いて言った。
2人の手には、短い木の棒が握られている。
「わっかんな~い、いつの間にか?」
コリンが、両手を胸の前に持ってきて、小首をかしげる。
「もう、何でもいいわ。つぎ、もう少しレベルを上げていくわよ。」
そう言って、エルが走り寄る。
「わっと!お願いしま~す。」
今度はコリンがジャンプして、エルの初撃を回避した。
「これだけで終わりじゃないわよ!」
かわされて、振り抜くかに見えた軌跡が急に反転して、コリンのこめかみを狙った。
「きゃっ!」
コリンは思わず目をつむった。
「やっぱり、まだまだね。でも、最初からこんなに出来ると思わなかったわ。」
エルの握った棒は、コリンのこめかみに当たる寸前で止まっていた。
「ふにゅう~~、こわかったあ。」
コリンは、脚をハの字にして、ぺたんと腰を落とした。
「まだ終わりじゃないわよ。コリンの武器は、スピアでしょ。突きの練習もしましょう。」
そう言って、エルが棒を構え直す。
「ふえ~、まだやるのぉ?」
「セイヤと一緒に、いたいんでしょう?」
「ふぁーい。」
コリンも、渋々立ちあがって、棒を構える。
「行くよー!」
カン、カンカン、コンコン、カン!
手を抜いているとはいえ、Aランク冒険者のエルの動きに、僅か5歳の女の子がついて行っているという、奇妙な光景が、街はずれの空き地で続いていた。




