56.あちち
「□▲○◇!!」
俺が距離を取るのを見たゴブリンナイトは、すぐに指示を飛ばした。
9匹のゴブリンソードに、5~6匹のゴブリンが引き連れられて、俺のまわりを取り囲む。
囲みの直径は30mほど。
それぞれに、棍棒や木剣を構えて、囲みを狭める素振りを見せる。
『サンドウォール』
俺は、ゴブリンたちの外側を囲むように、土の壁をぐるりと作り上げた。
「「「「「「「「「キシッシ!」」」」」」」」」
それを見た、ゴブリンナイトたちが、狼狽えるどころか、奇妙な笑い声を上げた。
俺がもう、逃げることができないと思ったのだろう。
59匹が、ゆっくりと一歩を踏み出そうとした。
『ファイアウォール』
その瞬間俺は、今度は自分とゴブリンたちの間、奴らの足元に火の壁を放った。
凄まじい豪火にゴブリンたちが後ずさる。
だが、土の壁に阻まれてそれ以上の逃げ場がない。
『ウインドウォール』
土の壁を背に、爪先立つ奴らに、さらに内側から、風の壁を外側へ向かって吹き付けてやった。
断末魔をあげたゴブリンたちは、数秒の後、消し炭となって燃え尽きた。
炎の輪が消えた地面の上には、59個の魔石が円状に残っているだけだった。
「タアー!」
俺が身体強化を使って、土の壁を駆け上がって、上から見下ろした時、仲間の断末魔を聞いて状況を悟ったゴブリンナイトが、巣穴へ逃げ込むべく、背を見せた瞬間だった。
「逃がすわけねえだろ。」
俺はそのまま、一気に壁の上からゴブリンナイトのすぐ側に飛び降りると、その背中にショートソードを力いっぱい突き刺した。
剣は、チェーンメイルを物ともせず、根元まで突き刺さった。
「どガシャン!」
ゴブリンナイトは派手な音を立てて、背中に剣を立てたまま、前のめりに倒れた。
「ズサッ。」
ゴブリンナイトが倒れたのを目にした俺は、なぜか全身から力が抜けて、その場に膝から座り込んでしまった。
「・・・・。」
剣を放してしまった両手を、静かに目の前に持ってきてみると、ワナワナと震えている。
「おわっ・・・たのか?」
手から目線を上げると、倒れ伏すゴブリンナイトが見えた。
「ブシュッ。」
俺は両手を地面につくと、そのまま這い進んで、ゴブリンナイトの背中から生えたショートソードを、引き抜いた。
「クッ・・。」
ショートソードを杖がわりにして、立ち上がる。
「土の壁・・・。」
ゆっくりとうしろを振り向くと、壁の向こうから煙が立ち昇っていた。
「魔石を回収しなくちゃ・・・。」
精神異常耐性が効いているはずなのに、体が重い。
俺はそのあと、ノロノロとただ機械的に、魔石を拾い集め、死体から取り出す作業を繰り返した。
・・・・・ゴブリンナイトのチェーンメイルは、穴が開いてしまったし、剥ぎ取る気分になれず、そのままにした。
「さて・・・帰るか。」
死体を一箇所に集めてファイヤボールで焼却し、全ての作業が済むと、俺はゆっくりとその場をあとにした。




