55.上も下も気をつけよう
「じゃあ、ゴブリン指定で索敵してみますか。」
俺は川で手に付いた土を洗い落とすと、討伐依頼の方をこなすために、『空間把握』スキルを展開させた。
「10000キュビ以内に・・・いないなあ。倍に範囲を拡げるか。」
お、反応あり!
「東に18500キュビに、100匹!?」
なんで、こんなに村から近い所に、コロニーが?
「エア村の冒険者ギルドなにやってんだ?
ワザとか?
「まあいい、行ってみよう。」
俺は、とりあえずこの場所をマーキングしておいて、『身体強化』を使ったまま、ゴブリンのコロニーを目指した。
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「巣穴?」
目的の場所近くに着いて、岩陰から様子を伺うと、でかい岩がいくつか組み合わさった塊を入り口にして、地面に開いた大きな穴から、何匹ものゴブリンが出入りしているのが見えた。
地上に出ているのだけで、100匹。
「あれ、もっと中にいるな・・・げっ!」
他の個体とちょっと違うのが、出てきた。
手に木剣を持っている。
「ゴブリンソードか。」
この分だと、巣穴の奥にはゴブリンナイトくらい居ても、不思議はないな。
ん~、それにしても、『空間把握』は地下にもある程度、範囲を広げておかないとだめだな。
「てか、今それやれよってことか。」
・・・やっぱり。
「ゴブリンがあと50匹と、ゴブリンソードが10匹にゴブリンナイト1匹ね。」
さて、どうしますかね。
『ウインドバレット』
俺は、自分の隠れている位置から、見える範囲の30匹ほどのゴブリンに対して、風の弾丸を放った。
「○△☓!」
突然、まわりの仲間がバタバタと倒れたのを見て、何が起きたのか分からずに、混乱するゴブリンたちだったが、地表に出ていたゴブリンソードが、俺の隠れている岩を指差して何事かを叫んだ。
すると、ゴブリンたちは一斉に俺の方を振り向いて、近づいてこようとする。
『ウインドバレット』
『サンドウォール』
俺は、ゴブリンたちの動き出しよりも早く、岩陰から飛び出すと、直ぐ様、新たに目視できた20匹ほどをウインドバレットで倒した。
そして合間に、新たに近づいて見えてくる奴らの、足元の地面を盛り上げる。
『ウインドバレット』
盛り上がった地面につまずいて、倒れた奴らや、立ち止まった奴らを、さらに30匹倒した。
『サンドウォール』
残りが20匹ほどになった頃、騒ぎに気づいた巣穴の中の奴らが、出てこようとした。
俺は、一旦サンドウォールで入り口を塞いでやって、アイテムボックスからショートソードとジャンビーヤを取り出した。
続けざまの魔法攻撃と、巣穴の入り口が突然塞がってしまったことで、ゴブリンたちの混乱はさらにひどいことになっている。
「ほら!いくぜ!!」
俺は、20匹あまりのゴブリンが、ひとかたまりになって右往左往しているところへ、剣を構えながら突っ込んでいった。
「ザスッ!」
最初の一撃目で、ゴブリンの首が吹き飛んだ。
「うっ。」
一瞬、初めて生物を斬る感覚に、大きな違和感を感じた。
ほんの僅かな罪悪感?
それとも、快感?
嫌悪感?
「とりゃ!」
それも僅かな瞬間であって、すぐに何事もなかったかのように、間近に迫った奴の首筋にジャンビーヤを突き刺す。
『精神異常耐性』の、おかげか?
ゴブリンソードの木剣は、俺のショートソードと打ち合った瞬間に、簡単に折れてしまって、意味をなさなかった。
戦闘は、1分足らずで修了した。
「ゴゴゴゴ・・・ドガン!」
その時、巣穴の入り口を塞いでいた、土の壁が崩れ落ちた。
舞い上がる土埃の向こうから、ゴブリンたちとともにニ回り大きい個体が姿を現した。
「ガシャン。」
チェーンメイルを着ている。
ゴブリンナイトだ。
ゾロゾロと、残りのゴブリンソードも出てくる。
『サンドウォール』
俺は、少し距離を取るため、土の壁で障害物を作った上で、後方に飛び退った。




