48.クエストを受けるのだあ~
散々、屋台で食べたあと、昨日来た日干しレンガ造りの冒険者ギルドの建物の前まで来た。
エルも、午後もべつに用事はないということで、一緒についてきた。
大きな木製の扉をくぐって中に入る。
中は、相変わらず賑わっていた。
基本的には、人族の冒険者やそのパーティが多いが、獣人族も見かける。
エルフやドワーフなどの妖精族は、見あたらない。
ましてや、まだお目にかかったことはないが、魔族もいないようだった。
「クエストなら、こっちよ。」
エルが進む方向に、掲示板があった。
木枠の中に、粘土板がはめ込まれている。
木枠は、ランク別に区切られており、ひと目で目的のランクの依頼が書かれている、粘土板を探せるようになっているみたいだ。
「え~と、Eランクは・・・。」
薬草の採取。
家の掃除。
倉庫の片付け。
ペットの散歩・・この世界にペットいるのか!
草むしり・・・。
「ん~~、こんなんでレベルって上がるんだろうか?」
「上がるわけないじゃない!Eランクの依頼なんて、そんなものよ。」
「えー、じゃあ何のために皆んな、こんな依頼を受けるんだ?」
「依頼をこなせば、ランクは上がるからよ。Dランクになれば、まともな、魔物の討伐の依頼を受けられるようになるから。」
そうか・・・でも、早くレベルを上げたいんだけどな。
「地道に行くしかないのかなあ・・。」
「あんたもバカね、説明聞いてなかったの?上下1段階まで、依頼は受けられるのよ。」
「ああそうか!Dランクの依頼も受けられるのか。」
「普通は、なりたての冒険者は、Eランクの依頼をこなしながら、鍛錬と経験を積んで、Dランクに上がったら、低ランクの魔物から挑戦するものなの。」
経験といえば、経験は無いんだよな、俺の場合。
「でも、シルバー・ウルフを狩れる実力があるなら、両方のランクの依頼を同時にこなしていけばいいんじゃない?」
「そうか、依頼は複数受注可能なのか。」
「実力の範囲内ならね。」
よし、じゃあコレとこれにしよう。
【Eランク依頼】
薬草の採取:HP回復ポーション用の薬草を採取してくる(なお、薬草の見本は受付カウンターでどうぞ)。報酬は、状態により変動するが、基本的に1株500シケル。期限なし(常時依頼)
【Dランク依頼】
魔物討伐:ゴブリンの討伐。討伐確認部位は魔石及び耳。報酬は、レベルにより変動するが、基本的に1頭1000シケル。期限なし(常時依頼)
「でも、報酬を考えたら、薬草採取の方が効率いい気がするな。」
「ゴブリンは、Eランクだから報酬も安いのよ。魔石以外価値もないし。」
「そっか。」
まあ、最初はしょうがないな。
慣れてきたら、別な依頼を受けよう。
「え~と、受付カウンターは・・。」
「左から3番めよ。」
「ありがと。」
黒髪イケメンの隣のカウンターか。
「すいませ~ん、依頼を受けたいんですけど。」
俺が声をかけると、頭の上の耳がピクリと動いて、受付のひとが顔を上げた。
猫人族のおねえさんだ。
大きくて綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
「いらっしゃいませ。では、カードをご提示ください。」
にっこり微笑んで、言ってくる。
「Eランクの、セイヤさまですね。今日はどういった依頼を、お受け頂けますでしょうか?」
小首をかしげて、うしろの長い尻尾を、ゆらゆら揺らしている。
「えと、Eランク依頼のHP回復ポーション用の薬草の採取と、Dランク依頼のゴブリンの討伐です。」
俺が希望の依頼を言うと、おねえさんはカウンターの上の、緑白に光る粘土板の表面を指でなぞっている。
「はい、かしこまりました。Eランク依頼のHP回復ポーション用の薬草の採取と、Dランク依頼のゴブリンの討伐ですね。」
スロットに差し込まれていた、俺のギルドカードが青白く光った。
「これで、受付完了です。薬草の見本はご覧になられますか?」
カードを俺に返しながら、聞いてくる。
「お願いします。」
背後の棚から、見本を取り出して見せてくれた。
へ~、これが薬草ね。
「ありがとうございました。」
「いえ。では手続きはこれだけですので、達成報告の際は隣のカウンターへお願いします。」
「分かりました。」
俺は、再度頭を下げて、二人のところへ戻った。
エルは、Aランクの依頼の区画を見ていたが、めぼしい依頼は無かったようだ。
「とりあえず、今日は少し早いけど、宿に帰ろうと思うんだけど?コリン、いいか?」
「うん!」
解らないくせに、エルの真似をして掲示板を覗き込んでいた、コリンに聞いてみた。
「それじゃあ、あたしも一緒に帰るわ。」
それを聞いたエルが、言ってくる。
「いいのか?」
「ええ、べつに用事もないし。」
「そうか・・・エル、今日は色々ありがとな。おかげで、やりたいことが全部できたよ。一日中つき合わせて悪かったな。」
俺は、改めてエルの顔を見ながらお礼を言った。
「な、何言ってるの。あたしは、ヒマだったからつき合ってあげただけよ。き、気にしなくていいわ。」
なぜか、エルがうろたえる。
「わかった、でも、こんどお礼に何かプレゼントするよ。」
「べ、べつにお礼なんていいわよ。セイヤもこれから、お金が必要でしょ?無理して、無駄遣いする必要ないわよ。」
なんで、そんなに慌てるんだ?
「確かに、エルほどお金は持ってないけど、こんな右も左も分からないところで、エルがいてくれたお陰で、すごい助かったからさ、お礼がしたいんだ。」
「そ、そこまで言うなら・・・。」
俺がもう一度、そう言ってみると、エルはうつむきながら、ようやくうなずいた。
「ねえ、ねえ。セイヤお兄ちゃん、コリンには?」
「そうだな、コリンがいると楽しいから、お礼に何かあげような。」
「やったー!!」
そうして、俺たちはギルドを出ると、月のらくだ亭へと向かった。




