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45.失いたくないもの

 あたしは、頼みなんて聞く気はなかった。


 でも、耳を塞いだって、声は聞こえてくる。



「実はな、11の魔物がもうすぐ、復活するのじゃ。」


「えっ!アプス神は、エア神様たちが、倒したんじゃ?」



 一瞬にして、あのときの光景が目の前に蘇った。


 廃墟と化したイナンナの町、無数の死体が焼け焦げる臭い。


 そして、お母さんとお父さんの・・・。



「・・それに、クサリクは封印したのでは?」


「アプスの妻のティアマトが、我らに復讐するため、邪神に堕ちたのじゃ。」


「では、ティアマトが?」


「息子のキングウを使い、11の魔物を復活させようとしている。」



 あたしは、どうしようもなく腹が立ってきた。


 神々の諍いに、なぜあたしたちが、巻き込まれなきゃいけないのか。



「でも、また神様たちが、倒してくれるんでしょう?」


「それが、そうもいかないのじゃ。ティアマトは、邪に堕ちた。堕ちたということは、もはや神ではない。神ではないものと、神である我らが戦うことは出来ぬ。」



 そんな、勝手な!



「それにな、ティアマトの狙いは、この世界そのものの破壊なのじゃ。ティアマトとアプスが、大元を創り、ワシたちが完成させた、この世界がな。」



 だからどうしろと、いうのだ。


 あのときと同じように、ただなす術なく、見ているだけしか出来ないのではないか。



「この村や人々のことを、どう思っておる?」


「どうって、別に・・・こんなあたしでも、優しくしてくれるし、エリス様、司祭様には命を助けていただいたし・・・。」


「セイヤやコリンのことは、どうじゃ?」


「セイヤくんたちと一緒にいると、楽しいし、なんか落ち着くけど・・・。」



 何を言っているの?


 魔物の大群の侵攻が、始まろうとしているのに、何が言いたいの?



「頼みというのはの、セイヤを助けてやってほしい、ということじゃ。」


「どうしてここで、セイヤくんの話しが出てくるんですか?」



 魔物の脅威と、昨日今日会ったばかりの人を助けることと、どう関係があるというのだろう。



 「それは、セイヤに邪神の討伐を託したからじゃ。」



 ちょっと、ふざけんじゃないわよ!



「あたしを、からかっているんですか!?今日、冒険者登録したばかりの、Eランクの初心者に、邪神討伐なんて、出来るわけがないでしょう!!!」


「からかっている訳ではない。彼には、特別な加護が授けられているのじゃ。」


「あたしだって、加護ぐらい持っているわ!エンリル様の加護が!!」


「そうではない、邪神を倒しうる加護が授けられているのじゃ。」


「はん!だったら、あたしなんて要らないんじゃないですか?普通・・の加護しか、持っていませんので!」



 もーほんとよく分かんない、あたしに何をさせたいの!



「そうもいかんのじゃ、そなたもさっき言ったとおり、セイヤは戦いに関しては、素人じゃ。いくら、特別な加護があろうとも、使いこなせねば、意味を成さん。」


「それは、エア神様の人選ミスだったんじゃないですか?」


「彼が選ばれる理由があったのじゃ、その理由について、言うことは出来ぬが・・・。」


「フン。で、結局あたしに何をしろと?」


「セイヤに、戦い方を教えてやって欲しい。そして、共に戦ってやって欲しいのじゃ。」



 ま、そうだろうとは思ったけど・・・。



「戦い方を、教えるのは構わないけど、どうして一緒に戦わなければならないの?」


「それは・・・・そなたが、一番よく分かっているんじゃないかの?」


「えっ?」


「なぜ、そこまで強くなろうとした?」


「それは・・・・。」



 あたしは、強く成りたかった。


 両親を殺した奴らに、復讐するため。


 独りでも、生きていけるようになるため。


 ・・・・・うううん、もう二度と大切なものを、失くさないため。



「・・・分かりました。あたしに出来ることがあるなら、全力でやってみます。」



 こんなあたしでも、優しくしてくれる村の人たちも、命を助けてくれたエリス様も・・・せっかく、友だちになれそうな、セイヤくんやコリンちゃんたちのことも、失いたくない!



「それと、コリンのことも、助けてやって欲しい。」


「コリンちゃんは、まだ5歳です。あんな幼い子が、一緒に戦いの場にいるなんて、危険なだけじゃなく、足手まといになるだけではないですか?」


「それが、彼女の運命さだめであり、彼女自身が望むことじゃ。だから、せめてそばにいて助けてやって欲しいのじゃ。」


運命さだめというのは、納得はいきませんが、あの子がそう望むなら、支えてあげたいと思います。」


「ありがとう。ならば、そなたに新たな加護を授けよう。その能力ちからをもって、彼らを支えてやってくれ。」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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