44.背負ってきたもの
「エルや、聞こえておるか?」
え?
エア神様の像の前で、お祈りを捧げていたら、頭の奥に誰かの声が聞こえてきた。
「あなたは?」
「そなたの目の前に、おるじゃろう。」
「エア神様?」
そんなことあるはずが!
あたしは、隣りにいるはずの、セイヤくんと、コリンちゃんの方を見た。
「!」
お祈りしたまま、固まってる!
全然、動かない!
どうして?
死んじゃったの?
「大丈じゃ、2人とも死んではおらんよ。」
「はっ!」
神像が、しゃべった?
「驚くのも無理はないが、ワシは、直接そなたの心へ、話しかけているのじゃ。」
「本当に、エア神様なのですか?」
「ああ、本当じゃ。」
そんな・・・。
「そんな!!どうして・・どうしてあの時もっと早く、助けに来てくれなかったんですか!?」
どうして、もっと・・・。
「あのときは、すまんかったのう。クサリクのやつを、封印するのに手間取ってしまって、そなたのいた町まで到達したのが、最後になってしまったのじゃ。」
「でもそのために!そのために、みんな殺されて・・・お母さんも、お父さんも・・・・。」
「すまぬ・・。」
あたしは、憎かった。
お母さんとお父さんを奪った、魔物を。
あたしは、許せなかった。
救ってくれなかった、神様たちを。
だから、強くなろうと思った。
あのとき・・・・。
***************
あるとき、町の司祭様が町のみんなを集めておっしゃった。
神々が戦争を始めたと。
いにしえの神、アプス神とエア神たち新しい神々が。
アプス神は、11の魔物の内の一つ。
有翼の牡牛クサリクを使役して、神々を相手に攻めてきた。
クサリクは、ミノタウロスを配下としていた。
数百、数千を超えるミノタウロスとその他の魔物の軍勢は、村や町、王都を破壊しつくした。
やがて、エルの故郷、イナンナの町も、ミノタウロスの軍勢が侵攻してきた。
またたく間に魔物に襲われて、多くの人々が殺された。
エア神の率いる神々の軍が、クサリクを封印し、その配下のミノタウロス軍を掃討し、エアの計略によりアプスが倒されると、ようやく戦争は終結した。
しかし・・・イナンナの町に神々の軍が到着し、町が救われる直前に、エルの両親は、ミノタウロスによって、エルの目の前でその身を引き裂かれて死んでいたのだった。
幼かったエルは、ぎりぎりのところで命が助かったものの、天涯孤独となった。
幼いながらに、魔物を憎み、間に合わなかった神々のことも恨んだ。
・・・・その反面内心では、助けてくれたことへの感謝もあった。
目の前で両親を惨殺されたエルは、普段は滅多に感情を見せることが、ほとんどなくなった。
エルは、独りで生きるため、魔物に復讐するため、冒険者として力をつけ続けた。
力をつけるため、来る日も来る日も、ただ淡々と、魔物を狩り続けた。
あるとき、Aランクの魔物と遭遇し、瀕死の重傷を負う。
偶然助けられたものの、エア村の神殿に運ばれて、司祭のエリスによって、ヒールをかけてもらい、辛うじて一命をとりとめたのだった。
それから、少しずつ感情を見せるようになったものの、相変わらず日々淡々と魔物を狩り、やがてAランクの冒険者となった。
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「あたしのことを・・・お母さんとお父さんのことを、助けてくれなかった神様が、今さらあたしに何の用があるっていうんですか!?」
「じつはな、頼みがあるんじゃ。」
「ふっ、何もしてくれなかった神様が、頼みですか?」
図々しいにも、程がある。
どの面下げて、頼みなんて・・・。
「図々しいのは、承知の上じゃ。」




