34.あ~た~らし~い、あ~さがきたっ
異世界二日目。
敷いてある毛皮がモフモフで、意外と寝心地が良かった。
それに、抱いている尻尾もフサフサで、最高に気持ちいい・・・・・ん?
「なんで、お前が俺のベッドにいるんだーーっ!!」
俺は、寝起きのはっきりしない頭で、その手触りを楽しんでいた物体が、俺の懐にすっぽりハマるように丸まっている、コリンであることに気がついて、思わずとび起きた。
「フニャフニャ・・・あ。セイヤお兄ちゃん、おはようございましゅ。」
狼狽している俺のことをよそに、コリンが目をこすりながら、ムクリと起き上がった。
「お、おはよう。・・・じゃなくて、隣に寝かせたはずなのに、なんで俺のベッドにいたのかと聞いているんだ。」
「だって、寂しかったんだもん。」
コリンが、目を伏せて言った。
「なっ・・・・そ、そうか。」
そうか、そうだよな。
身寄りのない5歳の女の子が、見知らぬ土地で一人・・だもんな。
「分かった、しょうがないな。許す。」
俺はそう言って、コリンの頭を撫でた。
「ありがとう!じゃあ、今晩も一緒に寝てくれる?」
「へ?あ、ああ・・・仕方ない、いいぞ。」
「ほんと?やったーーー!!」
相手は、5歳の幼い子供だ。
別にやましい気持ちはないし、いや、あるわけないし、いいだろう。
両手を挙げて、喜びまくっているコリンの姿を見て、俺はそう思った。
「よし、まずは顔を洗ったら、朝飯だな。」
「うん。」
水瓶の水を使って洗顔を終えると、1階の食堂に下りていった。
食堂は結構広くて、20人くらいがいっぺんに座れるくらいの席数があった。
厨房も、オープンキッチンのようになっており、とても開放感のある気持ちのいいスペースだ。
「「おはようございます。」」
テーブルの間を、料理を持って運んでいた、サリーさんに挨拶をする。
「おはよう。昨夜はよく眠れたかい?」
「「はい!」」
「それは良かった。好きな席に座っていいんだけど、あっちの席の方がいいんじゃない?」
朝から、満面の笑顔のサリーさんが、窓際の朝陽が差し込むテーブルを、手に持った料理の皿で指した。
そこには、エルが1人で座って、朝食を食べていた。
「ありがとうございます。」
俺は、サリーさんに頭を下げて、コリンとエルが座っている方へ移動していった。
「エル、おはよう。」
「エルお姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう。」
俺たちが声をかけると、ちぎったパンを口に運びながら、外の景色を眺めていたエルが、こちらに振り向いて、挨拶を返してきた。
言い方がぶっきらぼうだが、口元は微笑んでいる。
どうやら、機嫌はいいらしい。
「さあ召し上がれ!」
俺たちが、エルの向かいの席につくと、サリーさんが料理を運んできて、テーブルの上に並べてくれた。
パンにバター、スープに目玉焼き、白いふわふわしたチーズが載ったサラダ・・あ、俺このチーズ知ってる、モッツァレラチーズだ。
このチーズうまいんだよな、パンは丸いちょっと固めのパンだ。
「あれ?」
「どうかした?」
「いや・・。」
俺が、並べられた朝食一式に、違和感を感じて声をあげると、エルが怪訝そうにこっちを見た。
小さな器に入ったスープには、木のスプーンが付いていた。
パンは手でちぎって食べるし、バターは・・まあ、なんとかなるだろう。
でも、サラダは?
目玉焼きは?
ボウル状の器に入ったサラダは、さっき言ったチーズが入っていて、ドレッシングみたいなものもかかっている。
でも、朝食セットは以上だった。
フォークとか箸とかは?
そういえば、昨日の晩飯は、手で持って食べても違和感のないものばかりだったから、気が付かなかったけど、こっちに来て、スプーン以外のカトラリーを見ていない。
「これは・・・。」
俺がその疑問を口にしようとした時、エルが自分のサラダを三本の指で器用に食べた。
そういうことですか。
「ん?」
「いや、なんでもないです。」
エルがサラダを咀嚼しながら、小首をかしげてきたので、慌ててごまかした。
「・・・おいしい。」
俺は、エルの真似をして、直接手を使ってサラダを食べてみると、その意外なおいしさに目を見開いた。
「でしょ。」
エルが、そんな俺の様子を見て、少し微笑んで言った。
純粋な味つけは、塩と胡椒にオリーブオイルと、とても単純なのだが、通常の食感を含めた味覚に、指先から伝わってくる触感が加わることで、いままで経験したことのない、おいしさなのだ。
「セイヤおにひひゃん、食べないの?」
未体験の感動に固まっていた俺に、コリンが口いっぱいに頬張りながら、言ってきた。
「あ、ああ。たべる、食べる。」
「で、案内してほしいって言ってたけど、どこを見たい?」
食後のお茶~ハーブティーみたいなもの~を飲みながら、エルが聞いてきた。
「そうだな、まずこの服なんだけど、これじゃあちょっと目立つかなと思うんだよね。それと、魔物の解体用のナイフとか、コリンにも持たせたいから武器、防具のたぐいだな。」
「そう、服屋と武具屋ね。」
「それから、この村で見ておいたほうがいいところってないかな?」
「じゃあ、ジッグラトね。」
「ジッグラト?」
「あんた、ジッグラトも知らないの?神殿のことよ。」
いや、うちは真言宗で・・・。
「なんか言った?」
「あ!いや、べつになんも言ってません。そうか、神殿かあ・・そんなに立派なの?」
やべ、ひとり言が聞こえてた。
「そうね、エアがまだ栄えていた頃に建てられたものだから、だいぶ劣化が進んでいるけど、ソコソコ凄いわよ。なにしろ、世界の創造者であり、知識および魔法を司る神、エアを祀っているんだから。」
「あー、エア村って、そのエアなんだ。」
「あんた、ほんと何も知らないのね。」
「スイマセン。」




