33.ようやく就寝?
「さあ、お前たちも、もう寝なさい。」
サリーさんが、サム&サニーに声をかけた。
「「はーい。コリンちゃん、また明日ね~。おやすみなさーい。」」
2人は、コリンに手を振りながら、奥に消えた。
そういえば、ようやく2人の見分け方が分かった。
右耳の先っぽが、折れているのが、サム。
左耳が折れているのが、サニーだ。
「それじゃあ、お部屋へ案内しますね。」
「お願いします。」
サリーさんのあとについて、二階へと上がっていく。
階段を上がると、内廊下があって、両側に部屋が6つづつ並んでいる。
サリーさんは、どんどん廊下を進んでいった。
「ここが、エルちゃんの部屋ね。」
奥へ向かって右手に並んでいる部屋の内、突き当りから2番めの部屋を示して、サリーさんが教えてくれた。
「さあ、この部屋があなた達の部屋ね。6号室よ。」
エルの部屋の隣、一番奥の部屋の前でサリーさんが立ち止まって、扉を示した。
木製の扉には、大きく6と彫ってある。
つまり、エルの部屋は5号室だ。
サリーさんが、取っ手のところに魔力を流すと、カチャリと音がした。
どうやら、あれで鍵が開くみたいだ。
「さあ、ここに二人で手をかざして、魔力を流してみて。」
サリーさんに言われるまま、俺とコリンは、取っ手のところに手をかざし、せ~ので魔力を流した。
すると、またカチャリと音がする。
「最初にあたしの魔力で初期化して、あなた達の魔力を登録したのよ。」
「へーすごいですね。」
「あら、あなたの故郷には無いの?」
「え、ええ。田舎なもんで、鍵が必要ないんです。」
「ずいぶんと平和なところね。」
「ま、まあ・・・ははは。」
俺は頭に手を当てて、曖昧に笑ってごまかした。
「じゃあ、もう一度魔力を流してごらん。」
「コリンがやる!」
「やりたいのか?じゃ、やってごらん。」
「うん!」
コリンが魔力を流すと、カチャリとなって鍵が開いた。
「さあ、ここがあなた達の部屋よ。」
すると、サリーさんが扉を大きく開けて、中を見せてくれた。
「「わあ~。」」
2人で感嘆の声を上げた。
中は、15畳くらいの広さで、シングルサイズのベッドが2つ並んで置いてある。
ベッドは木製のフレームで、マットレスは無いみたいだ。
その代わり、あたたかそうな獣の毛皮が敷いてある。
掛け布団はなく、畳んで置いてある、薄手の毛皮がその役目をするのだろう。
「バフッ。」
コリンが、ベッドにダイブした。
大きな窓にはガラスはなく、今は雨戸が閉まっている。
窓際には、テーブルと椅子、テーブルの上には白い釉薬のかかった焼き物の花瓶に花がいけてある。
「あの水瓶の、水を使ってね。」
サリーさんが、指差す壁際の方に水瓶があった。
「分かりました。」
とても清潔で、居心地が良さそうな部屋の様子に、俺は安心した。
「それじゃあ、なにか分からないことがあったら、なんでもいいから言ってくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
一通り中を確認した俺のことを見て、サリーさんが言ってくれた。
「コリンちゃん、おやすみなさい。」
「おやすみなさ~い。」
ベッドでゴロゴロ転げ回っているコリンに、サリーさんは声をかけると、部屋を出ていった。
「さてと・・。」
ひとまず、俺もベッドに腰を掛けると、相変わらず転げているコリンの姿をぼーっと眺めた。
それにしても、こうして落ち着いてみると、なんの疑問もなく、コリンと一緒に宿屋に泊まることにしたけど、そもそもこれで良かったんだろうか?
親兄弟も親戚もいないみたいなこと言っていたけど、この村のしかるべき機関なり、施設なりに、迷子とかの届け出みたいなことをするべきだったんじゃないか?
「・・・でも、ほっとけないよな。」
「ふぇ?」
俺が、ボソリとつぶやくと、転げる動きを止めて、コリンがこっちを見た。
「コリンは、俺と一緒にいるんでいいのか?」
「うん!セイヤお兄ちゃんと一緒がいいの!!」
コリンの目を見つめて、俺がそう尋ねると、コリンはこっちのベッドに飛び移ってきて、抱きついてきた。
「ちょっ、わ、分かったから、のいてくれ!」
そのままベッドの上に仰向けに倒れ込む形になり、抱きついてきたコリンがのしかかって、肺が圧迫される。
「一緒がいいんだもん・・・。」
コリンは、俺の訴えもむなしく、抱きついたままだ。
ん?
「コリンおまえ・・・泣いているのか?」
ブレザーをはだけ、むき出しになったシャツに、顔を押し付けるようにしていたコリンだったのだが、その部分のシャツが濡れているのに気がついた。
「・・がいいんだもん。」
俺は、顔を押し付けたままのコリンの頭を撫でてやった。
三角耳が小さく震えている。
「・・・分かった、一緒にいような。」
コリンは、顔を押し付けたまま、無言でうなずいた。
15分ほど、そのままの状態でいたが、やがて、規則正しい寝息が聞こえてきた。
どうやら、泣き疲れたのか、あるいは安心したのか、抱きついたまま寝てしまったようだ。
俺は、そっとコリンを引きはがすと、隣のベッドへ抱きかかえて移動して寝かせると、毛皮の毛布を掛けてやった。
そして、コリンの頭をもう一度撫でてやり、自分のベッドに戻って、仰向けに寝っ転がった。
見知らぬ天井を見つめ、今日あったことを思い出してみた。
「俺、この世界でやっていけるのかな?」
元の世界のことも、考えてみる。
「みんなどうしてるかな?俺のことはどういう扱いになっているんだろう?心配してるのかな?」
首を横にして、隣のベッドのコリンの寝顔を見る。
「こんな小さな子と一緒に、大丈夫だろうか?俺、ほんとはまだ高校生だし、自分のことだけで一杯一杯かもしれないのに。」
「セイヤお兄ちゃん。」
その時、コリンがにっこり微笑んで、寝言を言った。
「やるだけやって、頑張るしかないか・・・。」
俺は、その笑顔を見て、何かふっきれるものを感じて、そうつぶやいていた。




