31.おみそれしました
カウンターから離れて、パブスペースの方へ向かうと、人だかりが出来ていた。
その中心のテーブルに座っているのは、エルとコリン。
「どうなってんだ?」
遠目から見ても、からまれている訳ではないようだ。
「エルちゃん、今日も可愛いね。奢ってあげようか?」
「エルさま、本日もお美しい!是非、今度お食事にでも。」
「エルさん、僕とパーティーを組みませんか?」
「エルちゃん!」
「エルさま。」
「エル閣下!」
いや、ある意味、からまれているようだ。
だが、エルはいっさい返事をせずに、ビールみたいな飲み物を飲んでいる・・って、お前未成年じゃなかったっけ?
そんなエルの隣で、コリンは黙々と何かを喰っている。
「コリンちゃんていうのかい?さ、これあげるからお食べ。」
「コリンちゃんも可愛いね。牛肉は好きかい?」
「コリンちゃん、兎肉はいかがかな?」
こっちは、なんかやたらと食べ物を貰っているようだ。
あいつ、あんなに食べれたっけ?
「コリン、エル、お待たせ~。」
俺が声をかけると、一斉にみんなの視線が突き刺さる。
「おかえり。」
「おはえりなは~い!」
エルは、一瞬、俺の方を見て答えると、再び飲み続ける。
コリンは、口の中になんかの肉をいっぱいに頬張って、満面の笑みで、手を振ってきた。
すると、周りにいた男たち~いや、女もいた~が、舌打ちをした後、離れて行った。
「エルって人気者なんだな。」
俺は、2人の向かいの席に座りながら、そう言った。
「別に、周りの連中が、勝手に寄ってくるだけ。」
エルは、無表情で言った。
「ひんな、やはひいの、ほ肉いっぱいくれたの!」
「エルってほんとクールだな。・・コリンは、口の中のものを食べてから、喋ろうな。」
俺の言葉に、エルは鼻先で笑い、コリンはコクコク頷いて、一生懸命に肉を飲み込もうとしていた。
「セイヤも、シカルを飲んだら?」
エルが、自分の飲んでいるものを、勧めてきた。
シカルっていうのか。
ビールみたいだけど、俺、正月に親戚のおじさんに飲まされて、すげー苦かった覚えしかないんだけど。
「そ、そうだな。飲んでみるか。すいませーん!シカルください。」
この世界では、16歳で成人だというし、郷にいれば郷に従えだ。
「っていうか、エル、お前未成年だよな?酒なんか飲んでいいのか?」
「いいのよ、冒険者は。」
「どんな理屈だよ!」
俺が突っ込んでも、涼しい顔だ。
「ところで、お金は手に入ったの?」
運ばれてきたシカルをひと口飲んだところで、エルが聞いてきた。
シカル、結構イケル。
ビールより、アルコールがきつくない感じだし、フルーティーで甘みもある。
ハマるかも・・じゃなかった、お金の件か。
「ああ、結構いい値段で買ってもらえたと思う。でも、シルバー・ウルフを出したら、すげー驚かれた。俺のランクじゃあり得ないって。」
「え!あんた、シルバー・ウルフを狩ったの?そんなはずないわ!あたしでさえ、群の場合は、ちょっとは手こずるのに!」
エルが、突然興奮し出した。
ん?ちょっと待った、あたしでさえ?
どういうこと?
「エルって、何ランク?」
「Aランク。」
「えーーー!(駄洒落じゃないよ)」
そんな高ランクなのかよ。
「ちなみに、このエア村にAランクは、何人くらいいるんだ?」
「1人。」
「エーーーーー!」
それで、さっきの騒ぎだったのか。
そりゃあ、村唯一のAランク冒険者なら、他の冒険者の憧れだよなあ。
しかも、こんなにかわいいし。
中には、変な崇拝者もいそう・・・。
コリンの方は、単純にかわいいからだろうけど。
「よく分かんないけど、偶然?仕留めることができたんだ。」
「偶然で、ヤレる相手でもないんだけど。まあいいわ、それよりあんたたち、今夜寝るとこどうするの?」
俺の適当ないい訳には納得いってないようだけど、エルは重要なことを言ってきた。
「そうだ!どうしよう。」
俺は、コリンの顔を見てそう言った。
コリンは、そんな俺の顔を、口のまわりを肉の脂だらけにして、キョトンと首をかしげ、見返してきた。




