3.世界はね
竹駒さん、別名竹駒稲荷とも呼ばれる竹駒神社は、地元では日本三大稲荷の一つと主張されるでっかい
神社だ。
毎年、何万人と言われる初詣客を集めるその神社に、俺も行っていたのだ。
「よいかな?」
イナンナが俺の顔を覗き込む。
ち、近い。
「だ、大丈夫です。」
「そうか。続きを説明するよ?」
「はい、お願いします。」
俺は、ドギマギしながら答える。
「世界というのは、幾つもの複製があるの。そして、それぞれの世界を担当する神々は、その複製を創り、見守り、導く義務があるの。」
転移って言うからには、別世界があるんだろうな。
でも、複製って・・。
「どうして、同じものを創る必要があるんですか?」
「複製されるのは、基本的な骨格のみなのよ。出来上がった世界は、その瞬間からそれぞれの歴史を紡ぎ出し始めるわ。そして、あなたの世界にあるコピー機と同じように、複製された世界には僅かな劣化~差異が産まれる。」
「はあ・・。」
「より多くの歴史が紡がれれば、それぞれの世界は多様性に満ちたものとなるの。でも、複製時の僅かな差異では、どうしてもそのバリエーションに限界があるわ。」
「なんとなく分かります。」
俺は、紅茶を一口飲んで頷く。
「その骨格というのは、どの世界でも神話や伝承によって記憶されているわ。だから、その世界の中で場所や国、時代が違っても、神話や伝承が基本的に似通っているのはそのため。」
「大洪水とノアの箱舟とか、ソドムとゴモラとかかな?」
「そう、よく知っているじゃない。で、よく考えてみると、世にある物語やゲームなどのストーリー、人生にいたるまで、全ては神話や伝承に語られたもののバリエーションでしかないと思わない?」
「そ、そうなんですかね。」
正直、そんなに本とか読んだことないし、でもゲームとかはそうかな。
「ただね、骨格はあくまで骨格であって、そのままでは、歴史を動かし、飛躍させ、バリエーションを生み出す力が足りないの。」
確かに、基本フォーマットだけでは、予定調和で終わるよな。
「そのために、いつの時代にも神々によって送り込まれる存在があるのよ。」
「もしかして?」
「そう、それが転生者であり、転移者なの。」
「つまり・・・。」
「あなたが、わたしの世界の『その存在』よ。」
「でもどうして、俺がそれに選ばれたんですか?」
「それはあなたが、あなたの世界のかつての転移・転生者たちの生まれ変わりだからよ。」
途中から薄々感づいてましたけど、そうハッキリ言われちゃうと、引くよね。
「あの、これってキャンセルとか出来ないんですよね?」
「悪いんだけど、もう向こうでは、あなたは死んだことになっているので、それは無理ね。」
ヤッパリ・・・。
「・・・・・・・・・分かりました。腹をくくりましょう。」
「ありがとう!」
数分間の熟考のうえ、了承した俺に、イナンナはパッと表情を明るくさせてお礼を言ってきた。
か、可愛いんだけど・・。
「それで、当然チートみたいなのは貰えるんですよね?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自分でつっこむのもなんですが、いつも初詣でに行ってたならなんで、今回に限って目をつけられたのか?
言い訳としては、全国に2970社が稲荷神社があって、祀っているだけの神社は32000社もあるから、ウカちゃんは忙しい。
だから、たまたま巡り会ったのが、今回だった。
ということで。