26.腹が減ってはいくさはできぬ
その建物の扉の前には、看板がぶら下がっていた。
『草笛亭』
あれ?俺って字が読めるんだ。
木の板でできた看板には、いわゆる楔形文字が刻まれている。
元日本人の俺にしてみれば、単なる記号・・いや、木の傷、でしかないそれを、文字として認識して、あっさりと読めていた。
ユニークスキル、全言語のおかげか。
っていうか、これまで普通にコリンやエルたちと話ができている時点で、それに気が付かないほうがマヌケなのか・・。
エルが扉を開けて、入っていく。
途端に聞こえてくる喧騒と、食欲をそそるいい匂い。
「「グ~ウ。」」
俺とコリンのお腹がなった。
「なにしているの、早く入って。」
エルが、入り口で突っ立ている俺たちに声をかける。
「あ、ああ。」
慌てて中に入ると、そこは居酒屋のようなところだった。
雰囲気は、まるで中東のよう。
絨毯のようなタペストリーが、壁にかかっていたり、曲線の多い椅子やテーブル。
客が座っているテーブルの上には、銀色の皿にサラダや焼いた肉、フルーツが山盛りに載っていた。
「お腹すいているんでしょ?」
その美味しそうな料理に目を奪われていると、エルが言ってきた。
「え?でも、俺お金持ってないし・・。」
「貸しとくわよ、換金できるものくらい持っているんでしょ?」
「ま、まあ・・。」
魔物の討伐部位を、換金できればなんとかなるとは思うけど、解体できてないしな・・。
「まずは腹ごしらえしてから、お金を作れば問題ないでしょ。その子に、あんまり無理させるんじゃないわよ。」
「そ、それもそうだな。」
俺は、覚悟を決めて、空いているテーブルに座った。
コリンには、椅子がちょっと高かったので、抱っこして隣の席に座らせてあげた。
エルは、俺の向かいに座った。
「ここは内陸だから、魚はあんまりだけど、肉類は美味しいの。」
そう言ってエルは、適当にオススメの料理を頼んでいった。
なんの肉かはわからなかったが、どの料理もスパイスがよく効いていて、意外に美味しかった。
支払いをエルがして、店の外に出ると、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
村とは言いながらも、灯火がいたるところに灯されていて、大通り沿いはまだまだ賑やかだった。
レンガづくりの建築物が、灯火に照らされている様は、異国情緒たっぷりで、俺は思わず見とれてしまった。
「じゃあ次は、冒険者ギルドね。」
エルは一言そう言って、大通りをさらに中心部へと進んでいった。
俺とコリンもその後に続いた。
やがて見えてきたのは、他の建物の数倍はある大きな建物だった。
補修がちゃんとされているらしく、日干しレンガの外壁もきれいだった。
「入るわよ。」
大きな木製の扉の前で、エルが言った。




