18.一緒に行きたいの
振り向いた目線の先には、さきほどまで魔物たちに囲まれていたものの姿があった。
ボロボロで泥だらけ、ところどころ擦り切れ破れている、オーバーオールのような服を着た、小柄な人の姿だった。
その華奢な体から、女性・・・女の子だろう。
うずくまって、顔を手で覆い、うめき声と思ったのは、泣き声だったらしい。
「大丈夫か?」
俺は、そっと近づくと、驚かさないように気をつけながら、声をかけた。
「もう、魔物はぜんぶ倒したから、安心していいぞ。」
嗚咽を洩らし続ける女の子に、そう言ってやった。
向こうをむいているので、背中越しに見える髪の毛の色は、明るい茶色・・金色にも見えるそれは、とても柔らかそうだった。
「怪我とかしているわけじゃないよな?」
一向に立ち上がらない彼女に、俺はもう一度話しかけた。
「ううん、だいじょうぶ。どこも怪我してない。こわかっただけなの。」
ようやく泣くのをやめて、返事をした女の子が、右手で目をこすりながら立ちあがった。
身長は100センチもない、本当に小柄な子だ。
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
そう言って、振り向いて顔を上げたその子の姿を見て、俺は一瞬息を呑んだ。
「えへっ。」
涙の跡が残る顔で、はにかんだ女の子の頭の上に、三角のフワフワした毛を生やした耳が、ぴょこんと立ち上がったのだ。
そして、うずくまっていた時は、股の間にでも挟んでいたのか、まるでマフラーのようにモフモフしたシッポが、後ろで左右にゆれていた。
「もしかして、狐人さん?」
俺は、思わずバカな質問をしてしまっていた。
「そうだよ。」
その質問に、なんの屈託もなく答えて、小首をかしげる。
俺は、魔物を見ても感じなかった、異世界に来たのだという実感を、何故かこの時、はじめて感じていたのだった。
「お兄ちゃんどうかした?」
「あ、ごめんごめん。大丈夫だよ。」
女の子の笑顔と、30秒ほど見つめ合ったまま固まっていた俺は、ようやく再起動した。
「ところで、君はどうして、こんなところにいたの?」
「んとね、人探し。」
「一人で?」
「うん。」
女の子が意外なことを言ってきた。
「こんな、魔物がうじゃうじゃいる森の中に、一人で行っちゃダメだって、パパやママから言われなかったの?」
俺は、女の子と目線が同じ高さになるように、しゃがんだ。
「パパもママもいないもん・・・。」
すると、女の子は再び目に涙をためてそう言った。
「え?じゃあ、他に家族とかは?」
「・・・。」
女の子が首を振る。
どういうことだ?
孤児ということか?
それとも、単なる迷子?
「そうだ!キミ、お名前は?」
俺は、話題を変えようと、明るい声を出して聞いた。
「コリン。」
すると、長いまつげに涙の粒を残しながら、笑顔を一生懸命に作って答えてくれた。
「俺は、セイヤ。よろしくな。」
俺も、コリンの頭をなでてやりながら、笑顔で答えてやった。
するとコリンは、今度は本当の笑顔になった。
「コリン、俺はこれから、どっか近くの村か町に行こうと思うんだけど、良かったら一緒に来ないか?」
俺は、こんな小さな女の子を、魔物がいる森の中に置いていくわけにはいかないと思い、そう言ってみた。
「うん、コリンもセイヤお兄ちゃんと、一緒に行きたい!」
「よし、一緒に行こう!」
俺はもう一度、頭をなでてやった。
・・・・けして、ホヨホヨの三角耳に触りたかった訳じゃありません。