115.バカと煙は高い所がお好き?
ギルドを出ると、広場から8方向に延びている街路の内の1本を上がり始める。
「ねえねえ、お腹すいたね!」
コリンがみんなの先頭を、後ろ向きで歩きながら言ってきた。
やけに楽しそうだ。
転ばないか心配になる(スキルのお陰でそんな事にはならないだろうけど)。
「そうだな、思いのほか長話になったから、もうそろそろお昼だしな。」
「でしょ、でしょ!(ミャンミャン!)」
ライアンも俺の肩の上で、嬉しそうに鳴く。
そういえばベンジャミンさん、ライアンのことはスルーだったな・・・ま、いっか。
「じゃあ、大通りに出たら、お昼にしましょ。」
「「「わーい(みゃ~)!!!」」」
「なんだかな~。」
王都に来た時の、ランチの定番だという、スザンヌさんオススメのレストランに入って、昼食を食べた。
いわゆる、インドカリーみたいなやつで、幾つもの皿に、いろんな種類の煮込み料理が盛られているものに、これまたナンそっくりな小麦粉をこねて薄くのばした生地をカリッと焼いたやつ、『ニャン』が付いてきた。
微妙なネーミング・・。
俺とエル、スザンヌさんは昼間っからシカルを飲み、コリンとアイリス、ライアンはヨーグルトの飲み物『ラッキー』を飲んだ・・・って、ラッシーじゃねえのかよ!
「さてと、イシュタル神殿へ行きましょうか?」
腹いっぱい食べたあと店を出ると、スザンヌさんが言った。
顔がちょっと赤い。
飲みすぎだろ!
「酒のんで、神殿行ってもいいんですか?」
「なに言ってるの!酒は百薬の長、神さまに捧げる神聖な飲み物よ!だいいち、お祭りの時にお酒はつきものでしょう!」
まったく説得力がない。
メインストリートから更に縦方向の道を、上の方の街区へとのぼっていく。
8方向へ別れていた道が、やがて2本へと集約され、上へ上へとあがっていく。
俺たちは、2本の内左の方の道を進んでいった。
目の前に見上げる高さの城壁が見えてきた。
進んできた道は、その城壁に突き当たるまえに、さらに左へと逸れていく。
どこまで上がるんだろう?
「さっきの右の方の道はね、王城の内門へ通じているのよ。こっちの道は、王城をぐるりと囲む内壁に沿って、あそこに見える峰の上の神殿へ通じているの。」
スザンヌさんに言われてその指差す方を見上げると・・・王城の遥か上、切り立った崖みたいになっている、峰の上に、白亜に輝くジッグラトが小さく見えた。
ひえ~!あそこまで行くのか?
「け、けっこう高い所にあるんですね。」
「常人のステータスじゃないくせに、ビビってんじゃないわよ。ほら、キリキリ歩く!」
「ん、ばかセイヤは文句が多い。」
「文句なんか一言も言ってないだろ!」
久々に、エルにバカ呼ばわりされた。
ん?でもバカじゃなくて、ばかか・・・なんとなくニュアンスちがくね?
「わー、イシュタルの町がもうあんなに小さくなってるー!」
コリンが眼下を指差した。
「おー、すげえな!」
「お城も、ちっちゃい!」
「だなー。」
そろそろ高さにしてどれくらいだ?
100mじゃきかないよな・・・200mくらいか?
結構、上がってきたよな。
「残りあと半分、行くわよ!」
「「へーい!」」
スザンヌさんに急かされて、再びあるき始める。
一時間後、ようやく神殿の入口が見えてきた。
「あー、やっと着いた!」
・・・にしても、でかくね?
「おっきー!」
コリンが声を上げる。
「そりゃそうよ、この世界で3本の指に入ると言われているジッグラトだもの。」
スザンヌさんが自慢げに言った。
「そ、旧都アンシャルの神殿は別格だから・・バロニアの王都にあるエヌルタ神殿、アリアの王都にあるアシュル神殿、そしてこのイシュタル神殿が3大神殿と言われてる。・・・でもこの神殿が一番きれい。」
「エルは、全部行ったことあるのか?」
「護衛依頼で何回か。」
「そうなんだ。」
ほんと、いろんな経験してるんだな・・。
「じゃあ、行きましょう。」
スザンヌさんに言われて、あとをついて行った。
「いらしゃいませ。お久しぶりでございます、ローリー様。」
「こんにちは、エリーザ。司祭長様はいらっしゃる?」
あれ?
ここは、怒るところじゃないの?
いつもならここで、『スザンヌよ!』って怒鳴っているとこなんだけど・・。
「はい、いらっしゃいます。・・・もうお一方も。」
「あら!」
一礼して答えるエリーザさんに、スザンヌさんは軽く驚いたあと、微笑した。
そういえば彼女、ハイエルフだ。
そうか、王都の神殿ともなると下っ端からハイエルフなんだな。
「ほら、セイヤ!」
ぼーとしていたら、エルに小突かれてしまった。
スザンヌさんはもう、階段を昇り始めている。
「わ、わりぃ。」