110.まわる~、まわる~よ、○○はまわる
城門前の広場にやってきた俺たちは、ある1棟の建物の前に立っていた。
王都へやってきた者が、城門をくぐり見上げた時に、最初に目に飛び込んでくるのが、この建物だ。
広場を挟んで正面にそびえ立つそれは、ハルバト国冒険者ギルドの王都本部である。
日干しレンガを使って、どのような技術で造られたのかは分からないが、高さ30mくらいある建物は、地球でいう所謂ビザンチン様式の建造物だった。
スザンヌさんを先頭に、装飾の施された重厚な扉を開けて、中へ入ろうとしたちょうどその時、手をかけようとしたその扉が内側から勢い良く開かれた。
「ちょっと、何なのよ!」(スザンヌ)
「うわ!」(俺)
「きゃ!」(アイリス)
「っと!」(エル)
「ほよ!」(コリン)
「にゃ!」(・・・・)
慌てて体をひねって避けた俺たちのすぐ脇を、20人程の冒険者たちがゾロゾロと出ていく。
「よーしぃ、一旦集まってくれぇ!・・・これからイナンナの町へ向かうがぁ!馬車は5台しか無いぃ!パーティー毎に乗ってもいいがぁ!アブレたやつは、ソロと同乗してくれぇ!」
ギルド職員とは思えない、ごつい感じの男が冒険者たちに言っている。
言われた冒険者たちは、広場に停めてあった馬車に、それぞれ分乗していった。
「乗ったなぁ?・・・じゃあ出発だぁ!」
馭者たちが馬にムチを入れると、ガタガタと音を立てて、馬車が走り去って行った。
「・・・・なんなんでしょう?」(俺)
「さあ?」(スザンヌ)
「イナンナの町って言ってた。」(エル)
「言ってましたね。」(アイリス)
「ほよ?」(・・・)
「みゃ。」(・・・・)
改めて、気を取り直した俺たちは、ギルドの中へと足を踏み入れた。
「・・・すげえ。」(俺)
「ハア・・・。」(アイリス)
「ほよ~~。」(コリン)
入口からすぐのロビーは吹き抜けのホールになっており、円柱が林立している。
壁と天井は、曲線で構成された壮麗な装飾が規則正しく埋め尽くしており、見上げるほど高い位置にあけられた、ステンドグラスがはめ込まれた縦長の窓からは、厳かな雰囲気の明かりが差し込んでいた。
「ヒタト国の建物は、どれも無骨で、どちらかというと質実剛健な感じなので、とっても新鮮です。」
アイリスは胸の前で両手を組み、目をキラキラさせて言っている。
「ステンドグラスあるんだ・・。」
「え?」
俺が小さくつぶやくと、エルが聞き返してくる。
「いや、なんでもない。・・それにしても、ここ神殿じゃないよな?」
「なに言ってるの、当たり前でしょう。神殿から、あんなにゾロゾロと冒険者が出て来る訳ないじゃない。」
「そりゃそうですね。」
アホなこと言ったら、スザンヌさんに窘められてしまった。
「ほら、ぼーっとしてないで行くわよ。」
スザンヌさんはそう言って、ずんずん広いロビーを横断していく。
「あの、どこ行くんですか?受付はあっちみたいですけど?」
俺は、10個ほど並んでいるカウンター窓口を指差した。
さすがに王都本部だけあって、窓口の数が多い。
「いいのよ、そんなの後回しでも。」
一瞥もせずに進んでいき、奥の方にある手摺のついた立派な螺旋階段を昇り始めた。
スザンヌさん以外の俺たちは、頭に『???』を浮かべながら、あとをついて行く。
「さあここよ!」
螺旋をなん回転かして、ようやく最上階とおぼしきところまでたどり着いた時、スザンヌさんが言った。
目の前には木製のでっかい扉。
ここって・・?
「お久しぶり~~。」
あの、ノックとか大丈夫ですか?