107.暗転
追っ手は執拗にボクたちを狙い続けて、国境を越えたときは1人の神官兵とボク・・2人だけになっていた。
ボクたちは、ニンフルサグ村になんとかたどり着き、神殿に助けを求めた。
村人たちは、とても親切だった。
もちろん、ニンフルサグ神殿の司祭さまも優しい方だった。
神殿に仕えながら、数年を過ごした。
ヒタト国との国交は完全に途絶えて、商人や旅人ではなく、魔物が・・それも強力な魔物が・・村の周囲にたくさん現れるようになった。
そしてあの日、司祭様や神官たちと一緒に、ボクは神殿の隣にある孤児院で、子どもたちにお昼ご飯を配っていた。
あと数人で配り終えるという頃、真昼の太陽に照らされていた地面が、突然陰った。
みんながいっせいに、空を見上げる。
「グギャーオ!!」
耳をつんざく、不快な声を出して、禍々しい魔物が一声鳴いた。
赤銅色をしてヌラヌラと光る硬い鱗。
全てのものを切り裂くことができるような鋭く、大きな鉤爪。
骨が浮き出た、膜のような大きな翼。
「ワ、ワイバーン!」
司祭様が絶句した。
その瞬間--。
人が2、3人は優に呑み込めるほど大きな魔物の口が開き、紅蓮の炎が吐き出された。
・・・あっと言う間に、家々が黒焦げになって、瓦礫と化していく。
バリバリバリバリ。
北門の方から、凄まじい破壊音が聞こえた。
門を破壊し、城壁を乗り越えてくる、大量の細長い魔物・・ワームとサーペント。
「「「「「「「キャーーーーーーーー!!!」」」」」」」
ワイバーンの出現に衝撃を受けて、固まっていたみんなが、悲鳴を上げる。
「また同じことが・・・。」
立ち尽くすボクに、唯一、一緒に生き残ったあの神官兵のシュルツが、叫ぶ。
「アイリス様、早く神殿へ!」
「う、うん。」
うなずいて、歩き出そうとして思い出す。
「司祭さま!」
見ると、子どもたちを庇いながら、孤児院の中へ逃げ込もうとしていた。
「ダメ!そっちじゃ保たない!神殿の地下へ!!」
ボクは、走り寄りながら精一杯大声で叫んだ。
ズザシャシャシャ!
「きゃっ!」
すぐ目の前の地面に、豪火が直線状に走る。
ボクが思わずその場に尻餅をつくと、炎と煙の向こうから悲鳴が聞こえた。
「あ、・・・・ああ・・・。」
炎を見つめながら、声にならないこえを漏らした。
「なにをグズグズされているのです!さあ、こちらです!!」
シュルツに、うしろから、抱きかかえるように引き上げられて、強引に歩かされる。
「し、司祭さまが!」
「早く逃げなければ、アイリスさまも同じことになりますぞ!」
炎の向こう側へ手を伸ばすボクに構わず、引きずるようにシュルツは、連れて行った。
迫りくる魔物たちを、剣と魔法で退けながら、神殿までたどり着くと、シュルツはボクを地下礼拝堂の入り口へ押し込んで叫んだ。
「此処ならば、地上がやられても暫くは持ちこたえられます。確か、今日はエア村の冒険者ギルドの討伐隊が、国境付近を警らするはずです。うまくすれば、間に合うかもしれません。」
「しゅ、シュルツは?!」
「時間稼ぎをするまでです。」
そう言って一礼すると、扉を閉め立ち去ろうとする。
「ぼ、ボクを一人にしないでぇーー!」
「どうか・・・アイリス様だけでも生きのびてください。そして・・・。」
ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ!!
扉の向こうで、シュルツがそこまで言った時、またしても轟音が鳴り響いた。
直後に起きた衝撃で、扉のそばから地下礼拝堂へと吹き飛ばされる。
そして硬い床に衝突する激痛と共に、意識が暗転した・・・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もうちょっとお付き合いを(願)。