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106.別れ



 ボクは、礼拝堂でキシャル神さまにヒタト国をお守りくださるように、一心にお祈りを捧げていた。 



「アイリス様、魔物が迫っております。一刻も早く、ここをお出になってください。」



 礼拝堂の入り口の扉を開けて、神官兵が差し迫った声をかけてきた。



「きっと、キシャル神さまがお助けくださるはずです。ボクは、ここでお祈りを捧げ続けます。」



 ボクは振り向くことなく、お祈りを続けた。




 あの時、キシャル神さまの御神託を、すぐにみんなに話したのに・・・誰も信じてはくれなかった。



『たとえ、そなたが聖女の称号を持っていようとも、そのような事があるはずがなかろう。』


『そうですよ。あなたは、あまりに熱心に修行をするから、疲れが出たのです。今日は神殿には戻らず、元の自分の部屋でゆっくり休みなさい。』



 そう言って、お父様も、お母様も微笑われただけだった。




 それが・・・現実のものとなろうとしている。



「どうすればいいのだろう?」



 遠くからは、何かが爆発するようなドーンという音が響いている。




「アイリス様!もはや猶予はございません。早くお逃げください!!」



 ひときわ大きな音が響いたとき、先ほどとは別の神官兵が扉のところへやってきて叫んだ。


 ボクは、全身が震えていることに気がついた。



「ああ・・・キシャル神さま!!」



 ガタン・・バタン・・・・・・・ズシャ!


 誰かが礼拝堂へ入ってきて、ボクのすぐ後ろに崩れ落ちたのが、気配でわかった。



「だ、だれ?!」



 ボクは、慌てて後ろを振り返った。



「ひ、姫様。・・・はやくお逃げください・・・。」



 そこにいたのは、昔よく遊んでくれた近衛騎士団長のシーグだった。



「シーグ!!どうしたのです、その身体は?!」



 鎧はひび割れ、血に染まり、兜は着けていない。


 ドワーフにしては長い手脚の内、左手はすでに無く、右足はあらぬ方向に曲がっていた。


 宮廷の女性たちに絶大な人気を誇っていた端正な顔は、腫れ上がり赤黒くこびりついた血で汚れている。



「してやられました。このシーグ、一生の不覚です・・。」



 唯一開いている右目でこちらを見上げ、苦笑とも泣き顔とも判別のつかない表情を見せる。


 片膝をついて、臣下の姿勢をとろうとしているが、脚を骨折しているため、形にならない。



「お父様とお母様は?」


「申し訳ございません・・。国王陛下も女王陛下も、もはや・・・。」


「!!・・・お兄様やお姉様も?」


「面目次第もございません・・。」


「そんな!」



 うなだれるシーグに、ボクは絶句した。




「・・・なにがあったのです?」



 ボクはようやく声を絞り出した。



「王城の門に魔物たちが迫った時、シア国の使者・・いや、もはやそのような者ではありませんが・・の護衛たちが、門衛を殺して門を開け放ったのです。」


「どうして!?」


「魔物たちが王城内へなだれ込む中、国王陛下らの側にいた使者たちの姿が突然一変して、異形のモノになったのです。そして、7人の護衛たち・・そのときにはすでに、かの者たちも異形の姿へと変わっていました・・に、老若男女を問わず殺戮するように命じました。」



 ボクは、あまりの衝撃で言葉を失った。



「宮廷魔導師をはじめ、我ら近衛騎士団も応戦しましたが、全く歯が立たず、ついには国王陛下まで・・・。」


「お父様・・・。」


「陛下は混戦の中、わたくしに最後の言葉を託されました。『娘を、アイリスの命を助けてほしい。』と・・・。」



 

 ・・・アレ?


 涙が出てこない。


 悲しいはずなのに・・胸が張り裂けそうなくらい悲しいことなのに・・。


 さっきまで聞こえていた、爆発音も遠ざかったように、あたりが静かになっている。



 お父様の豪快な笑い声・・お母様の鈴が転がるような笑い声・・・お兄様に頭をぽんぽんとされたこと・・・・お姉様とお城の花壇でお花を摘んだこと・・・・・昨日のことのように覚えている・・。





「シーグ殿!神殿の入口も、魔物たちに塞がれました。もはや、例の手段しか残されておりません!!」


「さあ、はやく!」



 急に爆発音が戻ってきた。



 目線を上げると、二人の神官兵がボロボロの姿で後ろを気にしながら叫んでいた。



「うむ、分かった!」



 シーグが片脚で立ち上がり、自分の腕をボクの腕にからませて、引きずるように祭壇の方へ歩き出した。


 シーグの手には刃こぼれをした長剣が握られている。


 ミスリル製のあの宝剣が・・・。



「さあ、この像を台座ごとこう動かして・・・。」



 神官兵のひとりが走り寄ってきて、シーグの手助けをする。


 すると、思いのほかすんなりと、キシャル神さまの神像が回転し、床に真っ暗な穴が口を開けた。



「ライト!」



 神官兵が魔法を唱えると、中が明るくなる。


 石造りの階段が続いているのが見えた。



「さ、姫様・・・お行きください。」



 シーグが、なにかを決断したかのような表情をして言った。



「え?お前も一緒に行くのではないの?」



 ボクは驚いて聞き返した。



「シーグ殿!あと精々もっても、30分程度です。」



 もう一人の神官兵がやってきて、シーグに言った。



「姫様を頼む。」



 シーグが頷いて、ボクから離れる。



「シーグ!」


「この身体では、かえって足手まといになります。わたしはここで、敵を食い止めますので、その間にどうかお逃げください。」



 そう言って、シーグが一礼する。



「そんな!駄目だよ!!一緒に行こうよ!!!」


「「アイリス様。」」



 二人の神官兵に両腕を抱えられて、無理やり地下道へと連れて行かれる。



「どうかご無事で・・・。」



 シーグが小さくつぶやいて、神像を元の位置に戻し始める。



「しーーーぐーーーー!!!」



 最後に見えたのは、小さい頃遊んでくれたときに見た、あの優しい笑顔だった・・・・。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




うわーーまだ終わらない!


スイマセン、続きます。

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