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104.宣告

 今度は、一斉にアイリスのことをみんなが見る。



「あの・・・ボク、ヒタトにいた時に神殿に仕えていたって言いましたですよね?」



 うつむいたまま、ぽつりぽつりとアイリスが話しだした。



「王都キシャルの、キシャル神殿に居たんです。」


「そうなんだ、そういえば神官だったっけ?」



 俺は、王都に入る時に交わした言葉を思い出して聞いた。



「ま、まあ・・・そんな感じです。で、ある日・・・そうですね、ちょうどヒタト国にあいつらがやって来る、ひと月前のことでした。」



 アイリスは、うつむいていた顔を上げ、胸の前で両手を組んで静かに目を閉じながら言った。



「いつもの様に、キシャル神さまにお祈りを捧げていたときでした。とつぜん、周りの音が聞こえなくなって、意識がフッと軽くなったような気がしました。」


「あの時とおんなじ。」



 エルが小さな声で独りごちる。



「そして、誰かが呼びかける声が聞こえたんです。いえ、聞こえたんじゃなくて、頭のなかに直接響くみたいな感じでした。」




「・・・その声は、ご自分を、キシャル神さまだとおっしゃいました。ボクはすごく驚いて、慌てて目を開けようとしたけど、どうしてもそれは出来ませんでした。」



 その時と同じように、アイリスは目を閉じたまま話し続ける。



「その声はとても温かくて慈愛に満ち溢れていて、すごく安心できるものだったから、ボクは自然とキシャル神さまだということを信じていました。」




「---そして、キシャル神さまは、こうおっしゃったんです。『間もなくこの国は暗黒に落ちて、ドワーフたちは安住の地を追われるでしょう。』と。」






********

 



「エッ!」



 ボクは、キシャル神さまの言葉に絶句した。


 だって、愛する祖国が大変なことになるなんておっしゃるんだもの。




 でも、絶句なんてしていられない。


 ボクは数瞬ののち、キシャル神さまにお聞きした。



「暗黒に落ちるって、どういうことですか?ヒタトはどうなるのですか?みんなは?お父様やお母様、お兄様やお姉様は?」


「・・・ヒタトは、邪神の手の者に奪われるのです。魔物たちに蹂躙されて・・。多くの者が、命を奪われるでしょう。」



 邪神?魔物たちって・・・もしかして!?



「邪神とは、アプスのことですか?魔物というのは、有翼の牡牛クサリク?・・でも、あいつらは数年前にエア神さまたちが・・・。」


「アプスの妻、ティアマトが邪神となって息子キングウに命じ、『11の魔物』を復活させようとしています。そして、エアをはじめ私達神々に復讐するため、この世界を滅ぼしに来るのです。」


「そんな!・・・では、この国を奪いに来るというのは、そのキングウと『11の魔物』のことでしょうか?」



 ボクはまだ小さかったから、よくは覚えていないけれど。


 たった1体のクサリクにさえ、めちゃめちゃにされて、特に隣のハルバト国の被害は壊滅的なものだったと聞いている・・・。


 そんなのが、11体も復活したら・・・。



「今は”邪神の手の者”としか言えませんが、少なくとも『11の魔物』ではありません。あのモノたちは、まだ復活を果たしていないのです。」



 良かった・・・と言っていいのかな?


 でも、祖国が奪われて魔物たちに襲われることには変わりがない・・。



「キシャル神さま!いったいどうすれば良いのですか?ボクはどうすれば?!」


「お聞きなさいアイリス。そなたはその時がきたら、南へ・・ハルバトへと向かうことになるでしょう。そしてある場所で、使命を授かります。」


「そうじゃなくて、この国を救うにはどうすれば?!」




「・・・・残念ながら、それは避けることができないでしょう。ただ、希望の光はあります。その光とともに在れば、この地を取り戻し、再興することも可能となるでしょう。」



 避けることができない?!




 そんな!!




 ・・・そうだ!


 このことをみんなに言えば・・・。



「みんなに言ってみます。よろしいですよね?」


「構いません。・・・ですが、恐らく信じる者はいないでしょう。」


「それでも言ってみます!」



 そうしないと、ボク・・・耐えられそうにないもの・・。





「そのかわり、そなたには特別な加護を授けます。この能力(ちから)はいずれ、必要となるでしょうから。」



 キシャル神さまのその言葉と共に、全身が温かい力で包まれるのを感じた。





********



「キシャル神さまはそして、『邪神ティアマトが、息子キングウに命じて『11の魔物』を復活させる。』とも教えてくださったんです。」


「そうだったのか、だからさっき・・・。」



 俺が思い出して言いかけると、アイリスは黙って頷いた。


 その顔は、どこか寂しげで、そして悲しげだった。


 祖国を無くしたんだもんな、当たり前か・・。


 思い出させて、悪いことしたかな? 





 しばらく沈黙が続いた。



「そういえば神託は2度って言ってなかったっけ?」



 俺は、重い雰囲気を切り替えようと、話を振ってみた。

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