100.だてに大きな顔してないわよ!
どうしてこうなった?
いま、俺の部屋のクイーンサイズのベッドの上で、何の毛皮か分からない、馬鹿でかいモフモフの毛布の海を相手に、コリンとライアンがバタバタと、泳いでいる。
そして隣の部屋では、エルが自分の武器の手入れを黙々としており、その傍らでアイリスがなにやら、祈りを捧げていた。
極め付けは、もう一方の隣の部屋のバスルームから、スザンヌさんの鼻歌が聞こえてくるのだ。
「どうしてこうなった?」
俺は、平泳ぎに続いてクロールを始めたコリン(ライアンは相変わらずネコかき)を、虚ろな目で見ながら、声を出して言った。
*************
時は少し遡る。
王都のメインストリート見物を適当に切り上げた俺たちは、今晩からの宿探しをすることになった。
スザンヌさんの案内で、ホテルや宿屋が集中している街区にやってきた。
「さすが王都だな、選り取りみどりじゃないか。」
道の両側に林立する、建物群に圧倒される。
それにしても、日干しレンガで10階建てとかどうやって造っているんだ?
「何日泊まるかも分からないし、そこそこの宿屋でいいよね?」
俺はみんなの顔を見回して聞いてみる。
すると、スザンヌさん以外が首を縦に振った。
「え?スザンヌさん、だめですか?」
「なにシケたこと言ってるのよ、せっかく王都に来たんだから、もっといい所に泊まりなさいよ。」
「でも、それこそ王都だから物価も高いんでしょ?これだけの人数が泊まるんだし、適当なところが・・・。」
「もう~。いいからいいから、あたしに任せなさい!」
「あっ、ちょっと!」
いきなり腕をつかまれて、グイグイ引っ張っていかれる。
他のみんなも、しょうが無しについて来るのだった。
「さあ、着いたわよ。」
しばらくして、結構立派なエントランスのホテルの前に連れてこられた。
屋根のついた、馬車止まりがある本格的な感じだ。
「いやあ~、ここはちょっとぉ・・・アレじゃないですか?」
「いいから、いいから。」
俺が尻込みしていると、そのまま手を引いて、ズンズン中に入っていく。
「うわわわわ!」
「いらっしゃいませ、スザンヌ様。」
受付カウンターに、ものすごい良い姿勢で立っていた黒ひげのホテルマンが、うやうやしく頭を下げた。
へ?なんで名前知ってんの?
お知り合い?
「こんにちは。例の部屋、空いてるかしら?」
スザンヌさんが、大きな顔を少し傾けて、ニッコリ笑って言った。
例の部屋?
「いつもありがとうございます。丁度、空いたところでございます。只今ご案内いたします・・・おい!」
ホテルマンも、一礼してニッコリ笑うと、控えていたボーイを呼んだ。
「スザンヌさん、大丈夫なんですか?こんな高そうなところに泊まって。」
俺は、ボーイの後をついて行きながら、小声でスザンヌさんに言った。
「大丈夫よ、ここは三ツ星だから元々そこまでお高くないし、あたしの顔で特別割引があるのよ。」
三ツ星?この世界のホテルのランクって・・・・五ツ星までか。(by 世界知識)
真ん中くらいってこと?・・か。
さすがにエルでも、こういう所には泊まったことがないのか、みんなと同じように周りをキョロキョロ見ている。
・・2階・・・3階・・・・4階・・・・・。
「スザンヌさん。」
「なによ!」
「どこまで行くんですか?」
「最上階に決まってるでしょ!」
ハアぁ?!
最上階って、普通・・・。
・・・・・10階。
「こちらでございます。」
・・来ちゃったよ。
ボーイが豪華な扉を開ける。
「「「「わあーーー!!!(ミャー!)」」」」
目の前には、広々としたリビングに豪華な調度品。
その奥には、いくつもの扉。
リビングの向こうには、開放的な景色が見える大きな窓。
「スペシャルスウィートよ。」
見りゃ分かるよ。
いや、そうじゃなくて。
どうしてここよ?
そりゃ、いまは結構お金持ってるけど、何泊泊まるんだよ?
そもそも、必要性あるか?
「「セイヤお兄ちゃん、すごいよこのベッド!(みゃみゃ~~!)」」
「あ、こっちにも部屋がある!」
「ボクは、エルちゃんと一緒でもいいですよ!」
「じゃあ、あたしはこっちの部屋ね!」
・・・・ボーイは、「ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」と言って一礼し、去っていった。
「あの、スザンヌさん。ほんとに、ここに泊まるんですか?」
「なに?お金のこと心配しているの?大丈夫よ、あたしもエルも払うし、そもそも9割引きだから。」
「え?!どうして、9割引きとかになっちゃうんですか?!!」
「あたしのお友達に、そういう証明書をもらっているの。だから、ダ・イ・ジョ・ウ・ブ。」
げ、ウィンクされた。
なんだよ、そのお友達って!
*************
ということで、今がこの状態なのだった。
「ライアンもう一回!こんどは、バタフライね!」