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第九話「想炎之拳」

女神は天から、それを覗いていた。

「あの白銀色の炎――――伝説は本当だったんですのね・・・・・・」

 アサミが変身した、あの形態。

 女神は知っていた。あれが何なのか。

 

 勇者ホロウの時代より少し後の事だ。

 ホロウが姫を取り返せず魔王の城で行方不明となった後、ゼロブラスヘイムが現れた。

 その時はまだライラスすら生まれていない時代で、勇者の素質を持った者がいなかった時代だった。

 しかしゼロブラスヘイムを倒そうと立ち上がる者は存在した。

 アサミと同じく、炎の拳を繰る少女である。

 彼女は鍛錬によって、アサミと同じく神炎之拳(ゴッド・バースト)を使える程度まで成長していたが、ゼロブラスヘイム全てを滅ぼすことは出来なかった。

 しかし、仲間の協力で力を受け取り、遂にあのプラチナ色の炎を纏ったのだ。

 伝説上では、あれは『想炎之拳(ウィッシュ・バースト)』と呼ばれている。

 それに変身した少女は、忽ち悪を一秒にして数千体を駆逐するという圧倒的な戦闘力を見せたが、首領を倒す前に変身が途切れ、結局殺されてしまったのだ。

「それが、今再びこの世に・・・・・・」

 あれは当時の首領が恐れた伝説級の技。

 今はそれだけでは倒せない程強くなってはいるが、あの技があれば、ある程度の敵は十秒も掛からずに駆逐出来る。

 きっと、天夜ですら倒すだろう。

「・・・・・・」

 

◇◇◇

 

 天夜に言われ、戦おうと身構えたその時だ。

 彼は目を閉じてから、闇の気を解放しながら呟いた。

「姉さんなんかには分からないよ。平気で約束を破るような姉さんには。

僕はただ、強くなりたかったんだ」

 そして茶色の制服のボタンを外すと、自分の後ろに投げ捨てた。

 ワイシャツと、茶色のスラックス姿になった天夜が続ける。

「強くなければ、価値が無いんだ。

価値無き者は、姉さんが二度経験した死の遊戯で散った者のようになる。

僕だってそうだ。僕と藍田君が体験した死の遊戯で、何人が死んだのか・・・・・・」

 自分で数人を殺しておきながら・・・・・・ッ。

 私は天夜に、自分の気持ちは吐露する。

「違う。

アンタはただ、自分の快楽の為に人を殺していただけ。

それは、ただの言い訳だよ。

そんな人に、私は負けないッ!」

 言い切ってから、私は拳を構える。

 天夜も拳を構え。

 互いに自分の持つ力を最大限に解放した。

「行くぞォォォォォッ!」

 最初に駆け出したのは天夜だ。

 全速力で私に接近しながら、天夜は両の拳の闇を高める。

(あん)(せい)爆裂(ばくれつ)ッ!」

 黒い闇が、流星の如く私に突撃する。

 刹那未満の時間で、私は両拳の籠手に纏う白銀色の炎を広範囲に爆散させ、それを防ぐ。

 炎は天夜に襲い掛かり、彼を怯ませた。

「き、貴様ッ」

 最早敵が姉であることも忘れ、私にそう叫ぶ天夜。

 バックステップした後、片手を宙に掲げる。

 その中心に、闇色の気が生成され、それは一つの槍へと変化していた。

 あらゆる光を断ち、貫く槍を。

闇槍解放(ダーク・グングニル)ッ!」

 そのまま一直線に、闇色の槍は私の心臓目掛けて突撃を開始する。

 銃の弾丸と同じくらいの速さだが、私にはその動きや、弱点が手に取るように見えていた。

「はァッ!」

 それに対抗するように、私は両手を合わせる。

 炎の双拳の応用技・《炎之盾(フレイム・シールド)》。

 両手の炎が巨大化し、盾と化して防壁を築く。

 闇の槍は炎に飲み込まれるようにして消失する。

「何ッ! うおおッ!」

 瞬間移動によって、一瞬にして私との距離を詰める。

 闇の波動を纏う拳が、私の顔面目掛けて放たれた。

 それを、顔を右に動かして躱す。

 先が読める攻撃だった。

「ぐッ!」

 私は右の手刀を、天夜の首に向かって剣を当てるように叩きつけた。

 前方に大きく吹き飛び、床に激突して倒れ込む。

「まだだッ!」

 再び起き上がり、瞬間移動で私に接近する。

「くッ・・・・・・」

 そのまま脛の部分を脇腹に叩きつける回し蹴りを放つ。

 しかし、右に吹き飛ばされながら体勢を立て直し、そのまま顎に向かって昇る龍の如く拳を叩きつけた。

「うわあッ!」

 私の拳に吹き飛ばされ、宙を舞う天夜。

 地面に叩きつけられ、少し転がり、両目を閉じた。

 

「・・・・・・倒した、のか?」

 落ち着いて、倒れた弟を見ながらそう呟く。

 数秒経っても、彼は立ち上がらない。

 もう気を失っているのでは・・・・・・。

 と私は思ったが。


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