第八話『炎の拳と闇の拳』
私達は再び、その塔の扉の前に立っていた。
私の他には、マリーもいる。
どうやらリョーヘイだけ、別の場所に飛ばされてしまったらしい。
仕方なく、二人だけでも天夜を倒そうとしていた。
「じゃあ、行くよ」
「はい、アサミさん」
私達は二人で、目の前の大きな扉を開ける。
ギィィィィ、という音と共に中の景色を映した。
「・・・・・・ッ!」
そこにあったのは、医者の男と斎藤が天夜の前で倒れている――という光景だった。
他に見えるのは、私の現実世界での同居人であるフタメが檻に閉じ込められているという光景。
その二つに、私は一旦息を飲んでから叫んだ。
「斎藤君! フタメちゃん!」
叫んだ後――私はその天井辺りを見て、そこにあるものに驚愕した。
天夜だ。天夜が宙に浮いている。
だが少し冷静になり、天夜に対して言う。
「まさか空を飛べるようになってるなんて、思わなかったよ天夜。
これじゃ、今の私じゃ倒すの難しいかも知れないね」
天夜は嘲笑して、私を見下ろしながら呟いた。
「そう。これこそが僕と姉さんの一番の違い。
姉に勝る弟なんていないってどっかで聞いたことあるけど、如何やらそんなこと無かったみたいだね」
闇を纏う右掌を私に向ける。
掌の中心に闇の弾丸が生成され、そのまま私に向かって放たれた。
一直線に放たれる闇の弾丸。
だが不思議と、避ける――いや受け止め、防御出来そうな気がしていた。
私の能力《炎の双拳》を発動させ、天夜と同じように闇の弾丸に右手を翳す。
弾丸は途方も無く重く、強く、そして何より私を殺さんとしている。
限界まで己の感情を抑える。
炎と一体化するイメージを脳内で浮かべ、そして爆発させる。
私は体内に潜む自分の全力を爆散させた。
私の周りに衝撃が走り、闇の弾丸は木端微塵になる。
気付けば、両手の赤かった炎は神々しい金色に輝いていた。
不思議と全身に、力が湧いていた。
眼を細めてから、私は天夜に言う。
「天夜。アンタは、ここで倒す」
ゆっくりと天夜に歩み寄り出す。
「無駄だよ。まだその程度じゃ、僕を倒せないよ。姉さん」
それを聞いて動揺した。
天夜は敵の気配を察知し、強さを計測することが出来るらしい。
故に、私が《神炎之拳》を発動した程度では倒せない、そういうことだろう。
だが、大人しく諦める程単純な人間ではない。
私は地を蹴って駆け出した。
自分の中で爆発し続ける力に導かれるように、私は右拳を引き絞る。
天夜の顔面に向かって、まず思い切り突き出す。
「未熟だね姉さん」
掌で私の拳を防ぐ天夜。
そのまま解放してから、使わなかった手で拳を作り、私の腹に拳を突き出す。
「ぐァッ!」
だが不思議と、痛みはそこまで感じなかった。
すぐに体勢を立て直し、右足で回し蹴りを放つ。
私でも驚く速さで、脇腹にクリーンヒットする。
「何て速さだ。なら僕も本気になろう」
ピシュン、という音と共に天夜は眼前から消滅した。
「どこ?」
「こっちだよ、姉さん」
背後からの声。
振り向いてすぐに、顔面に拳を浴びた。
「くッ・・・・・・」
頭を後ろにして後退しながら、すぐさま左拳を前に突き出す。
左拳から火龍のブレスの如く、激しい炎が天夜に向かって放たれた。
「甘いよ」
背中に重い一撃。天夜の蹴りだ。
「・・・・・・ッ!」
ダメだ・・・・・・。天夜には勝てない。
私は跪く。
だが。
「アサミ・・・・・・ッ! 俺の力を使え・・・・・・。
貴様を倒すのは、この俺だ・・・・・・」
斎藤が掌を私に向ける。
白いオーラのようなものが流れ込み、金色の炎の輝きが増す。
パチッ、というスパーク音が大きく耳に響く。
「少し強くなったようだね・・・・・・でも」
「アサミ、必ず天夜を倒してくれ・・・・・・。弟を倒せなくて、すまん・・・・・・」
医師と思しき男が、斎藤と同じく私に力を送る。
再びスパーク音。
「アサミ、私の力も受け取れ!」
フタメも同じく、力を託す。
そこで、自分の中で何かが起こった。
自分の脳内に流れる、膨大な記憶。
私や皆が参加したデスゲームで散って行った仲間、生き残った仲間、倒した敵。
そんなゲームに巻き込まれた中でも、皆必死に生きようとしていた。
仲間を信じようとしていた。
犯人を突き止め、倒そうとしていた。
「皆・・・・・・」
皆のおかげで、生き残れた者もいれば。
皆のおかげで、散った者もいる。
散った者の想いを背負って、この炎の拳を爆発させる。
目の前にいる、悪を倒す為に。
◇◇◇
何という、膨大な力だ――と天夜は感じた。
しかも力が上がっただけではない。
姿もかなり変わっている。
紫色だった短髪は、プラチナ色に変化し。
青い二重瞼の瞳も、同じくプラチナ色に。
両拳の炎も、同じくプラチナ色に変化していた。
「これは面白そうだね。さあ、戦おうよ。姉さん」
「言われなくても、戦うよ。天夜」