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第七話『天夜VS斎藤&藍田 その二』

「斎藤・・・・・・」

 藍田は天夜が作った檻の中から、斎藤が天夜と戦うのを見ていた。

 天夜は一度も攻撃せずに、斎藤の特技を喰らっても特に変わった様子は無く、今天夜によって斎藤は殺されようとしている。

「こんなもの、見ていられるかッ!」

 痺れを切らした藍田。

 女神に教えられた通り、身体中に力を込めた。

 この世界では、正式な転生以外で転移した者は爆発的な力が手に入ると教えられた。

 故にこの檻を気合で破ることなど、簡単に出来る筈。

 藍田はそのままイメージした。

 自分から放たれた気合の波動が、自分の周りを覆う檻を破壊するのを。

 そのまま藍田の身体を、オーラのようなものが覆った。

「うおおおおおおおおおおおおッ!」

 自分の中から、圧倒的な力が溢れ出す感覚。

 藍田はそれを解き放ちたい衝動に駆られる。

 今目の前では、自分と共に天夜と戦うことを決意してくれた仲間が、手も足も出ずに困り、そして殺されようとしている。

 藍田が怒る理由など、それで充分だ。

 命が、命が消えようとしている。

 藍田はこの世界を守る為に呼ばれた転移者である前に、卵ではあるが医者だ。

 人の命は尊く、目の前で困っている者がいたら自分の全てを懸けて命を救え、それが自分の実の父――死んだ実父から教えられた言葉だ。

 そして何より、天夜は自分と共に脱出を誓った仲間達を殺した者。

 藍田が戦うのを躊躇う理由などない。

 藍田は自身の力を爆散させた。

「うらァァァァァァァッ!」

 藍田の身体中から放たれた気は、自身を覆う魔法の檻にヒビを入れ――。

 

 ――破砕した。

 

 檻が破壊され、そのままゆっくりと天夜と斎藤が戦う王の間に舞い降り。

 天夜に叫ぶ。

「天夜! 俺も斎藤と戦うぞ!」

 

◇◇◇

 

「随分と簡単に破壊したね、藍田君。

僕は斉藤君と遊びたかったのに、何てことをしてくれるんだい?」

「決まっている。お前を殺す為だ」

 憤る藍田の言葉に、天夜は笑って煽った。

「君研修医なんだよね?

研修医が、人に対して軽々しく殺すとか言って良いのかな?」

それが自分からあの松田信繁とかいう奴の配下になった者の台詞か――と言いたかったが、それは言えない。

 自分から仲間になったのも、それで多くの人を殺したのも、全て藍田と同じだからだ。藍田が衝動を抑えきれずに行った行動で、世間を騒がせたのは天夜と変わらないのだから。

 操られていたという事実が発覚した後、藍田は釈放されたが、藍田自身は、自分を赦せずにいた。

 もう一度試験を受け、再び研修医として働いてはいるが、客や上司に嫌そうな顔を向けられる度に、藍田は自分のした行動を幾度も反省し、夜は眠れなくなる。

 自分達の過ちによって死んでしまった人間の為にも、自分と共に脱出を志して散った仲間の為にも、彩花の為にも。

 俺は――。

「俺は、お前を赦せないんだ。

罪もない者を次から次へと殺したお前を。

そして今、斎藤を殺そうとしているお前を

お前には分かるまい。

お前と、自分自身に憤っている俺の心を」

 天夜は嘲笑する。

「カッコいい事言ってるつもりになっている所悪いけど、斎藤君にも殺せない僕を、君程度が殺せる筈無いんだよ」

「分かっているさ・・・・・・」

 自分など、天夜の姉のアサミという少女や勇者が来るまでの駒に過ぎない。

 だけど、天夜は藍田の永遠の宿敵だ。

 だから――。

「やめろ、藍田ッ!」

 藍田を呼ぶ声。

 天夜に苦戦している、アサミのライバルの声。

「手出し無用とか言いたいんだろ。

姉に勝てない代わりに、弟だけは倒したいって思ってるんだろ?

だが諦めろ。こいつは俺とお前が力を合わせなければ倒せない。

だから、俺と協力しろッ! 斎藤!」

 そう叫んでから、手術用のメスを取り出して突撃した。

 天夜は動かない。

 動かない彼に向かって、藍田はメスの切っ先を突き出す。

 だが、当たらない。

 更に連続で突き出し続けるが、切っ先は何もない空間を刺すのみ。

 険しくなる藍田の顔とは対照的に、天夜は笑い続けている。

「当ててみてよ、つまんないの」

「・・・・・・畜生ッ!」

 息を切らしながら叫び、藍田は全力の突きを放つ。

 最早人間の技ではない動きで、何もない空間を貫く藍田。

 隙が出来た藍田の顎に向かって、天夜は膝蹴りを放つ。

 釣り上げられた魚の如く、藍田は上に吹き飛ばされる。

 そのまま頭から、地面へ落下した。

「・・・・・・ッ」

 声を出さずに、上体を起こす藍田。

 動けない藍田に構わず、天夜は追撃の為右拳を握って接近する。

 勢いよく突き出された拳が、藍田の顔にめり込むように刺さる。

 ザザザ、と藍田は床を滑って顔を押さえる。

 やはり違う、と藍田は思う。

 あの死の遊戯の時は、まだ力に差は無かった。

 落ち着けば倒せる相手だとは思ったし、事実瀕死にはなったが撃破した。

 だが、今は力の差がありすぎる。

 反撃しようと再び上体を起こすが、その時には既に天夜は背後にいた。

 天夜の右足が少し動き、藍田の後頭部を蹴り上げる。

 斜めに飛ぶ藍田。

 高速移動で先回りする天夜に、空中で追撃を喰らい、壁に激突する。

 どういう原理で飛んでいるかは知らないが、空で浮かぶ天夜が嘲笑しながら口を開く。

「無駄だよ。君が僕を倒せるわけがないんだ。

分かっている事じゃないか」


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