第六話「天夜VS斉藤」
「まさか姉さんがここに来るなんてね」
「ああ、驚きだ」
彼は瞬間移動で帰って来た天夜に向かって言う。
「でも取り敢えず、勇者達は街までリターンさせたからしばらくは大丈夫だと思うよ。
それよりさ、この世界の神が転移者をこっちに向かわせてるってホント?」
「ああ。斎藤基、コリューメ・ドーラ、藍田白世とか言ったような・・・・・・」
情報によれば、その三人は天夜と、その姉アサミの世界の住人らしい。
現在ここに直接転移させようとしているそうだ。
「まあでも大丈夫じゃないかな?
転移者を増やしたってことは、多分女神は焦っているってことだろうし」
とか言っていたその時だ。
彼の眼前に白い光が出現し、天夜もそちらを向いた。
そこから現れたのは三人の人影。
まず、黒いツンツンした髪に黄色の三白眼の、エラの張った青年――斎藤基。だが彼は死人故、天夜と同じく頭上には金色の光輪がある。
次に、金色のツンツンした髪に姉に似た青い瞳の容姿を持つ少女――コリューメ・ドーラ。
そして、天夜にとっては宿敵と言っても過言ではない存在。
灰色のツンツンした髪に、紅い奥二重の瞳の研修医――藍田白世。
全員、この世界の神が用意した転生者だろう。
「天夜・・・・・・」
転移者の一人――藍田白世が天夜を睨みつけて言う。
すると天夜は溜息を吐いて呆れ顔で返答した。
「また君か、藍田君。
確かにあっちで君に僕は一度殺されたけどさ。
今は絶対君如きの技じゃ死なないからね?」
半目のまま、天夜は三人を見る。
天夜は斉藤を見た瞬間顔を動かすのをやめ、指を鳴らす。
藍田とコリューメの身体が、黒い檻のようなものに閉じ込められ、檻はそのまま天井に引き寄せられるようにして飛んだ。
斎藤と天夜が向かい合う。
「さて三人掛かってきても僕の実力なら一掃出来るんだけど、それじゃあ姉さんが来た時つまらないから、まず君だけ倒させてもらおうかな」
と相手を挑発する天夜に対し、斎藤は、
「あのアサミの弟の割には、全然性格が似ていないな。
気持ち悪くて吐きそうになる」
「僕が気持ち悪いのは素直に認めるよ。
だけど、君にそんな事を言っている余裕があるのかな?」
挑発を続ける天夜に、斎藤は睨みつけながら言い返す。
「確かにアサミには負けたが、貴様なら殺すのは容易そうだ。
勇者とやらが来るまで、俺が相手をしてやろう」
◇◇◇
会話の後、斎藤は帯刀していた剣を抜いた。
対して天夜は拳を握り、斎藤の方から攻撃するのを待っている。
「さて、君から攻撃して良いよ。
戦闘開始だ」
斎藤は一旦呼吸を止めた後、勢いよく駆け出した。
下段から手に握る剣を、天夜の下半身に向かって振り上げる。
だが天夜はそれを軽々と回避し、刃を掴んだ。
「くっ・・・・・・」
刃が天夜の手から解放された後、斎藤は三度剣を振るう。
けれど、天夜には一撃も当たらない。
神速を超えた剣は、相手が動きを把握さえしなければ、ほぼ必中である筈なのに。
「どうしたの、当ててみてよ」
天夜の挑発に乗り、元々厳つい顔を更に歪めながら、斎藤は接近する。
右手に握られた剣で薙ぎ払う一撃。
回避不可能な筈のその一撃は、またも天夜に命中せず、何もない空間を斬った。
そして、斎藤は気付けなかった。
天夜は既に、斎藤の背後をとっていることに。
「この程度なの?」
天夜の闇を纏った右の拳が斎藤の首に突き刺さる。
斎藤は剣を握ったまま一直線に吹き飛ばされ、顔面から壁に激突した。
何とか復帰した斎藤。
剣を構えなおし、再び天夜の方を向く。
「俺の本気を見せるか」
斎藤が死の遊戯で使用していたアビリティ――――風の刃が発動し、斎藤の周囲を風の刃が包み始めた。
剣を握っていない方の手、左掌を余裕な表情を見せる天夜に向ける。
掌の中心に、風の弾丸が音を立てて出現する。
「これで終わりだ。
ウィンドバレットッ!」
そう叫んだ後、掌から一直線に風の弾丸が放射された。
天夜目掛けて飛ぶ風の弾丸は、天夜に激突すると同時、巨大な爆発音を立て――天夜を撃破した。
否、撃破したと思った。
攻撃が収まった後、斎藤が目にしたのは。
全く無傷の状態で、紫色の結界を張る天夜だ。
「これが君の本気?
つまらないね。今度はこっちの番だよ」