第十五話『心を失った魔法使い』
心を奪われ、石像のように動かないマリーの身体を背負いながら、私はリョーヘイを探していた。
あの天夜の魔法によって、てんでバラバラの場所に転移させられてしまい、私とマリーだけが偶然同じ場所で目覚めただけで、リョーヘイがどこにいったのか、私には分からなかったが。
「アサミ!」
リョーヘイの声。
私を見て察したのか、顔は悲痛そのものだった。
「おい、マリー! しっかりしろ!」
自分の力不足が腹立たしい。
最終的にはマリーの力を借りることになり、想炎之拳だって、自分一人の力じゃない。
自分一人では何も出来ず、結局取り返しのつかない状況を呼び寄せたのは、どう言い訳しようが。
私自身が、原因なのだ。
この世界では、事故やケガで死んだ人間は生き返っても、心を失った者は生き返らない。
そもそも、心の無い者には生死の概念が無くなるからだ。
石像が、自分の意思では壊れないように。
心を失った人間は、生きる事も死ぬことも出来ない。
「ごめん、リョーヘイ君・・・・・・」
「・・・・・・、いや。謝るのは俺の方だ。
いくら勇者って言っても、俺はやっぱり何も出来やしない。
一人の仲間も救えないのに、何処が勇者なんだよ」
激しく落ち込んでいる様子だ。
その瞳は、前髪に隠れて、口元でしか表情を察することしか出来ない。
「マリー・・・・・・。
なあ、アサミ」
私は何も言えなかったが、代わりにリョーヘイが問う。
「どうしたの?」
リョーヘイは森の外へ歩き出す。
私もそれを追うように立ち上がる。
それを確認した後、リョーヘイは続けた。
「アサミはどうして、少し落ち着いているんだ?
俺より、心が強いように見える」
少し驚愕する。
確かに、激しい落ち込みはない。
理由は既に分かっている。
「私の世界じゃ、心を失った人間は愚か、普通に死んだ人間すら生き返れない。
私は今まで、一日に沢山の人が死ぬって地獄を二回程見てきた。
その度に生き残って、死んだ人間の想いと共に前へ進んできた。
勿論、一人死んだくらいで心が折れるような人じゃ、とても耐えきれない光景だった」
「そうか・・・・・・。そんな過酷な世界で、生きてきたんだな」
私は何も答えない。
「ところでアサミ、お前はこれからどうするんだ?
自分の世界に、帰るのか?」
「うん。一旦、家に帰るつもりだよ。
また何かあったら、こっちにも行くよ」
「なんか、すまないな」
リョーヘイは静かな声でそう言う。
少し歩いてから、テレポートストーンという名の道具を用いて、セントウェスティアに転移した。
マリーを寝かせてから、リョーヘイはジョーやフェリックらと共に、建物に残り。
私は後からついてきた斎藤達と話していた。
「アサミ。今回は世話になったな」
死人の証である光輪を頭に浮かべる斎藤が、低い声で言う。
「こっちこそ、ありがとう」
まだ落ち込みが抜けない私に、次に話かけたのは藍田だ。
「わざわざ弟を殺すような真似をさせてすまない」
「仕方が無かったんです。
だから、気にしないでください」
遂に、顔を見ることすら無くなった。
「では、俺達は先に帰る。
元気でな、アサミ」
藍田はそう言ってから、テレポートストーンを使用した。
青い光に包まれ、消える直前、何も言わなかったフタメが口を開く。
「落ち込むのも良いが、早く帰って来いよ。アサミ」
それだけ言い残し、シュン、という音と共に三人は消えた。