表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

第十五話『心を失った魔法使い』

心を奪われ、石像のように動かないマリーの身体を背負いながら、私はリョーヘイを探していた。

 あの天夜の魔法によって、てんでバラバラの場所に転移させられてしまい、私とマリーだけが偶然同じ場所で目覚めただけで、リョーヘイがどこにいったのか、私には分からなかったが。

「アサミ!」

 リョーヘイの声。

 私を見て察したのか、顔は悲痛そのものだった。

「おい、マリー! しっかりしろ!」

 自分の力不足が腹立たしい。

 最終的にはマリーの力を借りることになり、想炎之拳だって、自分一人の力じゃない。

 自分一人では何も出来ず、結局取り返しのつかない状況を呼び寄せたのは、どう言い訳しようが。

 

 私自身が、原因なのだ。

 

 この世界では、事故やケガで死んだ人間は生き返っても、心を失った者は生き返らない。

 そもそも、心の無い者には生死の概念が無くなるからだ。

 石像が、自分の意思では壊れないように。

 心を失った人間は、生きる事も死ぬことも出来ない。

 

「ごめん、リョーヘイ君・・・・・・」

「・・・・・・、いや。謝るのは俺の方だ。

いくら勇者って言っても、俺はやっぱり何も出来やしない。

一人の仲間も救えないのに、何処が勇者なんだよ」

 激しく落ち込んでいる様子だ。

 その瞳は、前髪に隠れて、口元でしか表情を察することしか出来ない。

「マリー・・・・・・。

なあ、アサミ」

 私は何も言えなかったが、代わりにリョーヘイが問う。

「どうしたの?」

 リョーヘイは森の外へ歩き出す。

 私もそれを追うように立ち上がる。

 それを確認した後、リョーヘイは続けた。

「アサミはどうして、少し落ち着いているんだ?

俺より、心が強いように見える」

 少し驚愕する。

 確かに、激しい落ち込みはない。

 理由は既に分かっている。

「私の世界じゃ、心を失った人間は愚か、普通に死んだ人間すら生き返れない。

私は今まで、一日に沢山の人が死ぬって地獄を二回程見てきた。

その度に生き残って、死んだ人間の想いと共に前へ進んできた。

勿論、一人死んだくらいで心が折れるような人じゃ、とても耐えきれない光景だった」

「そうか・・・・・・。そんな過酷な世界で、生きてきたんだな」

 私は何も答えない。

「ところでアサミ、お前はこれからどうするんだ?

自分の世界に、帰るのか?」

「うん。一旦、家に帰るつもりだよ。

また何かあったら、こっちにも行くよ」

「なんか、すまないな」

 リョーヘイは静かな声でそう言う。

 

 少し歩いてから、テレポートストーンという名の道具を用いて、セントウェスティアに転移した。

 マリーを寝かせてから、リョーヘイはジョーやフェリックらと共に、建物に残り。

 私は後からついてきた斎藤達と話していた。

「アサミ。今回は世話になったな」

 死人の証である光輪を頭に浮かべる斎藤が、低い声で言う。

「こっちこそ、ありがとう」

 まだ落ち込みが抜けない私に、次に話かけたのは藍田だ。

「わざわざ弟を殺すような真似をさせてすまない」

「仕方が無かったんです。

だから、気にしないでください」

 遂に、顔を見ることすら無くなった。

「では、俺達は先に帰る。

元気でな、アサミ」

 藍田はそう言ってから、テレポートストーンを使用した。

 青い光に包まれ、消える直前、何も言わなかったフタメが口を開く。

「落ち込むのも良いが、早く帰って来いよ。アサミ」

 それだけ言い残し、シュン、という音と共に三人は消えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ