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第十四話『短期決戦 しかし、マリーは』

話は、全て聞いた。

 酷い話だった。

 人の心を錬金し、武器にするなどという術がこの世界にあると思うと、私はとても正気を保てない。

 既に握っていた拳を震わせながら、私はガブリエルと名乗る男に叫ぶ。

「そんな・・・・・・、アンタは妹の心さえも」

「妹の心だと・・・・・・?

そんなものは知らん。俺は利用出来るものなら何でも使う。

俺をバカにした奴らに復讐する為に。

だけど、まずマリーを殺さなきゃいけないって知って、少し辛いけどね」

「なら、やめてよ!

私だって、ガブリエル君と戦いたくない!

だって、ガブリエル君は私の事・・・・・・」

 

「愛していたさ」

 

 マリーの言葉を遮るように、ガブリエルが言う。

 しかし。

「だが、お前はいつの間にか、あの勇者に心を奪われていたな。

もう必要ないよ。俺を好きじゃないマリーに用はない。

俺と首領様の為に、華々しく散ってもらおう」

 ガブリエルは式句のようなものを口ずさむ。

 何も無い空間に、白い光が瞬き。

 そこから、一人の少女が出現した。

 だが様子がおかしい。

 生気が全く感じられない。

 まるで、死んでいるような。

「メローラ。あいつらを殺せ」

 メローラと呼ばれた少女が、操り人形のように不自然な動きで、私に襲い掛かる。

炎之光波(フレア・フラッシュ)ッ!」

 眼も灼けるような炎の波動が、私の両掌から放たれる。

 白金色の炎はメローラを包み込む。

 しかし。

「ッ!」

 全く焼けていない。

 傷一つ負っておらず、焼けたのは服だけだ。

「残念だな。

心なきメローラは、ダメージなど受けない。

心と切り離された肉体は、あらゆる攻撃のダメージを受けない。

そして、死ぬことすら出来ない」

「くッ・・・・・・手刀・兜割!」

 炎を宿した右の手刀を、メローラの頭上に振り下ろす。

 これもノーダメージ。

 次にメローラは、手持ちの短刀で私の左肩を切り裂く。

「ぐおッ!」

 目の前に血が飛び散るのを確認しながら、私は後退する。

「やめて、メローラちゃん!」

 そう言ったのはマリーだ。

 マリーの言葉で、メローラは止まる。

 心が、切り離されている筈なのに。

「どうしたメローラ!

まだそいつは生きている。殺すんだ!」

 ガブリエルの怒号。

 しかしメローラは動かない。

 私には理解出来ていた。

 メローラの言わんとしている事が。

「出来ない・・・・・・と言っているように聞こえる。

メローラちゃん」

「俺が相手をしてやろう。

天夜を倒し、ここまで追い詰めた褒美に」

「私は、負けない」

 

 私は、ガブリエルに少しだけ近付いた。

 拳を握る。敵から目を逸らさずに。

「行くよ、ガブリエル!」

 敢えて敵の名を叫びつつ、私は突撃した。

 ガブリエルも、剣を握りつつ突進を開始する。

 短期決戦に持ち込むべく、私は構えた。

 心臓すら穿つ、炎の双拳の単発重攻撃技。

奪命拳(ヴォーパル・ストレート)ッ!」

「はァァァァッ!」

 ガブリエルは単発の突き技の体勢に入った。

 そのまま私の右拳と、剣の先端が激突し。

 私達の目を灼く程の光となった。

「負けないッ!」

 その光は、僅か数秒程の激突の後爆散した。

 光の爆散とほぼ同じタイミングに、私の身体にも変化が起きる。

 力が、抜けていくのを。

 想炎之拳が、解けていくのを。

「・・・・・・時間切れって、ところかな・・・・・・」

 だが、敵は。

 まだ立っている。

 想炎之拳の攻撃を受けて生きている。

 もう既に体力を使い果たし、神炎之拳すら発動出来ない状態だ。

 

 ここで、私は負けるのか。

 眼を閉じ、ただ死ぬのを、私は待った。

 

「止めですッ! フィールドマジック・ギガファイア!」

 マリーの声。

 ガブリエルを焼き尽くさんと、魔法陣から放たれる炎。

 ガブリエルは必死に耐えている。

「俺は強くなった。

マリーにも負けないくらい、強くなったんだ!」

 ガブリエルの剣は、激しい炎を受けて耐えている。

「強くなるだけが、生きる目標じゃない!

失敗の悔しさで泣いたり、成功の嬉しさで笑ったり!

そんな気持ちが、また自分を強くする!

それが、私が旅で見つけた答え!

もう一度です!

デュアルキャスト ファイア&フリーズ!」

 炎と氷が合わさり、それはまるで地獄となってガブリエルを襲う。

「合体魔法・炎氷地獄(インフェルノ)!」

 

 ガブリエルは今度こそ、息絶えた。

 ひらひらと宙を舞い、仰向けに倒れ。

「終わりましたね、アサミさん」

「うん。これで終わったんだ」

 

「いや、終わってなどいない」

 その声を聞いて、私はぞっとした。

 背後から聞こえた、その声に。

 ガブリエルが立っていた。

 ほぼ瀕死に近い状態だ。

 あれでは立つのがやっとの筈だが。

「さよなら、マリー。

せめて、俺が君を殺してあげるよ。

君の心は、俺のものって昔から決めてたからさ」

 途切れ途切れの声で言うガブリエル。

 右手を、マリーに向かって突き出し。

 式句を唱え始める。

 そして右手から。

「ッ!」

 眩い光が放たれ、それはマリーの心臓を穿った。

 いや、違う。

 正確には、マリーの身体には傷一つつけていない。

 マリーは、撃たれた体勢のままで倒れた。

「マリーちゃん・・・・・・、マリーちゃん!」

 私は叫ぶ。

 だが、マリーは何の反応も示さない。

 ガブリエルは今度こそ、息絶えたようだ。


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