第十三話「心の錬金術師 過去編3」
「ただいま・・・・・・」
「あ、お兄ちゃんおかえ・・・・・・ってお兄ちゃん傷だらけ!
待ってて、今包帯持ってくるから」
――――。
ガブリエルは妹――メローラに包帯を巻いてもらい、自室に戻った。
床で寝転がりながら、彼は右手を伸ばした。
「俺には、やっぱり何も出来ないのかな」
自分の愛する者の涙さえ、拭うことが出来ない自分が心底腹立たしい。
自分には、あの石頭を割るなど出来ない。
マリーの親父の考えを変えさせることなど出来ない。
『出来るさ、お前の力があれば』
「!?」
突然聞こえたその声に、ガブリエルは息を飲んだ。
自分の声。
自分が発したわけではない。
耳を通して聞くのではなく、頭に直接聞かせたような、そんな感覚がした。
「誰?」
『俺はお前自身。俺は禁忌を犯したお前自身に、更に強くなる方法を教えにきた』
――。
そこからガブリエルは、自分自身に教えられた。
更に、強くなる方法を。
眼が覚めると、メローラが自分を起こしに来てくれた。
ガブリエルはいつの間にか自分で掛けていた掛け布団を払い除け、ベッドに座って立ち上がる。
「なあ、メローラ」
「なあに、お兄ちゃん」
「マリーの家に行ってくるから、帰ったらお兄ちゃんと遊ぼうか」
「うん!」
満面の笑みで返事をする妹を見てから、ガブリエルはそのままマリーの家に向かった。
だが。
「マリーが家出!?」
「うん。一人で村を出て、旅に行ったそうだ」
そう言ったのは、マリーの姉のステファニーだ。
ガブリエルは両拳を握り、彼女に叫んだ。
「なんで、なんで止めてくれなかったんだ。
なんでだよッ!」
怒るガブリエルを見ても、ステファニーは顔を変えなかった。
謎だな、とガブリエルは思った。
妹が出て行っても、表情を変えないのだから。
「俺もマリーを探しに行く。
どんな手を使っても」
そのままガブリエルは、自分の家に戻った。
「おかえりお兄ちゃん!
早かったね」
いつものように元気に出迎えてくれたが、どうやらガブリエルの表情を見て察したらしい。
メローラはガブリエルに寄り添って訊く。
「マリーさんに、何かあったの?」
「ああ・・・・・・。遠い所に、行ったんだ。
だから、俺も追いかけなくちゃならない。
メローラ」
「ん?」
ガブリエルは覚悟を決めた。
妹に対して、これからその言葉を言う覚悟。
そして、それを行う覚悟。
「メローラ、俺の為についてきてくれるか?
そして、俺の為に一緒に戦ってくれるか?
その心が、もし無くなったとしても。
俺の駒として、散ることになったとしても。
お兄ちゃんも、メローラに強制は出来ないから。
これは、メローラ自身が決めるんだ」
「?
よく分からないけど、お兄ちゃんがそう言うなら、メローラもお手伝いしたい!
一緒に旅に行こ、お兄ちゃん!」
首を傾げながらも、ガブリエルにそう言うメローラ。
堪えきれず、ガブリエルはメローラを抱き締めた。
「――そっか、ありがとう」
その夜、ガブリエルの家は瞬く光り。
次の日には、ガブリエルは一本の剣と共に旅立った。