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第十二話「心の錬金術師 過去編2」

ガブリエルが練成したもの、それはウィリアムの心だ。

 本で読んだことがある。心を錬金するという行為について。

 何故禁忌なのかも、読んだことがある。

 心を練成された者は精神的、肉体的にも元に戻る事は不可能で、蘇生魔法などを用いても蘇る事は出来ないのだ。

 つまり、かなり厄介な人殺しということ。

「でも・・・・・・」

 自分に出来る筈はないのだ。

 本によれば、禁忌である上に、心を錬金する行為は最高難易度の錬金術なのだ。

 故に、まともな置物一つ作れない自分に使える筈はないのだ。

「まあでも、これで良いことが思いついた」

 この言葉を口で発した瞬間、ガブリエルの頭からはそれが禁忌であるという言葉は消えた。

 あったのは、その力を使ってしたいことだ。

「これがあれば、リロイに・・・・・・」

 復讐出来る。

 ガブリエルは少し嗤った。

 

「あ、そうだ。マリーの父さんは」

 笑っている途中に気付き、そのままマリーの父親達に見られない所まで駆ける。

 大きめの家の壁を使って隠れ、そのまま顔を覗かせた。

 そこにはマリー達の姿もある。

 マリーの父親は、自分の娘全員に話し掛けているようだった。

 まずは、マリーの右隣に立つ一番年上そうな少女。

「いや、よく助けに来てくれた。ステファニー、麻痺魔法もしっかり使えててよかったぞ」

「ありがと」

 ステファニーは少し照れながらだったが、嬉しそうにしているのが感じられた。

 彼女はマリーの姉だ。

 ガブリエルもマリーから、彼女の話をよく聞く。

 マリーより凄い魔法使いだと聞いたことがあるが、前に魔法を見せてもらった時は、マリーは自由自在に火の玉を操ったりしていたのだ。

 ガブリエルはマリーが一番だと思っている。

 次にマリーの父親が話しかけたのは、一番年下の娘。

「ロミアも、ステルスを上手く使えててよかったぞ」

「えへへ」

 ロミアはステファニーとは対照的に、思い切り満面の笑みで嬉しそうな顔をする。

 そしてスキップしながら、その場を立ち去った。

 彼女はマリーの妹。

 だがまだまだ未熟で、地道に姉たちに追いつこうと頑張っているらしい。

 最後に父親は、マリーに顔を向ける。

「そして、マリー」

 マリーはどう褒められるのだろう、とガブリエルはその場で胸をドキドキさせながらわくわくしていた。

 父親は他の姉妹たちの時よりも少し近づく。撫でてでもあげるのだろうか、父親羨ましいとか思っていたが。

 マリーに飛んできたのは、平手打ちだった。

 他の二人の姉妹も、嬉しそうな表情から驚愕の顔へと変じ、それはガブリエルも同じだった。

 同時に、怒りも頂点に達していた。

 頬を押さえるマリーに対し、父親が続ける。

「今回、一番役に立たなかったのはお前だ。勝手に出てきて、下らない魔法でピンチを大きくして。ステファニーがいなかったらどうなっていたか、もう少し考えろ」

「いや、そんなこと言うなよ父さん!マリーのあの魔法で状況が変わったじゃないか!ダメージだって…」

「だったらステファニーがやったようにステルスからパラライズ、そしてファイアを撃てばいいじゃなかったのか?」

「そんな事言ったら父さんだって魔法反射されてたじゃないか……!」

「いや、隙を見てパラライズ叩き込むつもりだったぞ。トドメを刺す瞬間、そこが一番油断するポイントだ。そこを見計らっていたところでお前達がやってきたんだよ」

「くっ……」

 ステファニーは言い返せない。

 仕方ないだろう。自分の父親は、この村一の魔法使いで、同時に魔法学校の先生なのだから。

 彼が魔法に関して言うことに、間違いなどないだろう。

「とにかく、マリー、お前は下らない魔法のために時間を無駄にし、本来覚えるべき魔法の練習を怠っていた。そしてその魔法を強いと勝手に過信し、結果、ピンチを拡げた。型通りの魔法が使えなくて迷惑をかける魔法使い。それを、無能な魔法使いと言うんだよ」

 マリーの顔は既に死んでいた。

 そしてガブリエルの心には、色々な感情が芽生えていた。

 今彼女の父親は、才能を摘もうとしている。

 劣った才能しか持たない自分から見たら、真に才能があり、そして人格が優れた者が馬鹿にされるのは腹立たしい光景なのだ。

 マリーは天才だが、リロイみたいなクズ野郎とは違う。

 ガブリエルには優しくしてくれた。それは他の子に対しても変わらない。

 そんなマリーを、ガブリエルは愛しているのだ。

「父さん!言いすぎだ!」

「事実を言っただけだ。そしてステファニー、マリーのようになりたくなかったら、これまで通り、しっかりと魔法の勉強をしろ。道に沿った学びのお陰で、今回のお前の活躍があったのだからな……」

「マリー、待て……」

「放っておけ」

 その場から立ち去るマリー。

 顔は悲痛そのものだった。

「るさない・・・・・・許さない」

 ガブリエルは堪えきれず、そのまま飛び出した。

「貴様ァァァァァァァァッ!」

 マリーの父親が気付いた。

 ガブリエルはポケットにもう一本入っていたスプーンの形状を変化させ、ナイフに変える。

「貴様。よくも、よくもマリーを」

 ガブリエルが放った渾身の突きは、見事にマリーの父親に回避された。

「お前は、マリーの知り合いの錬金術師か」

 

 咄嗟に唱えられる魔法。

 ガブリエルはそれに気付くことが出来なかった。

 岩の弾丸が、ガブリエルの腹に激突し、悶絶する。

「けほっ、けほっ・・・・・・」

「何の用だね。私はマリーが無能だと思ったから、無能と吐き捨てたまでだ。

私の何が悪いというのだ」

「貴様は知らないかも知れないけどな。

マリーは、マリーは。

無能なんかじゃない。俺なんかよりもっと才能があって、そして、優しい子なんだよッ!」

 ナイフを父親に投擲する。

 一直線に進むナイフは当たらずに、炎魔法によって消し飛ばされた。

「人格が良いだけや奇抜な才能のみでは、ダメなのだ。

基礎がしっかり出来、そして実戦で役に立てる魔法使いこそが有能。

そしてそれ以外は、才能があろうとなかろうと、無能なのだよ」

「貴様、まだそんなことを言うかッ!」

 今度はウィリアムの心から練成した剣を振り下ろす。

 渾身の一撃は杖に防がれ、ダメージが入らない。

 忽ち父親に弾かれ、そのまま杖を刃に叩きつける。

 その瞬間だ。

 剣にヒビが入り、刃が二に折れる。

「その剣・・・・・・いや何も言うまい。

とにかく、マリーが無能という言葉は取り消さんぞ。

もう遅い時間だ、帰りなさい」

 マリーの父親はそう言うと、娘達を連れて家の方に歩き出す。

「畜生、畜生・・・・・・ッ!」

 錬金術が失敗した時以上の悲しさが、ガブリエルを襲う。

 涙が滴り落ちるのを感じながら、両拳を床に叩きつけた。


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