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第十話「天夜の心」

ほぼ瀕死に近い状態から、天夜は立ち上がった。

 全身に闇のオーラを循環させながら、彼は口を開く。

「ははは・・・・・・。

少しはやるじゃないか、姉さん。

だけど、まだまだだよ」

 そう言ってから、ワイシャツのボタンを一つ一つ外し始める。

 全て外してから、天夜は続けた。

「妥協なんて僕には必要ない。勝負は死ぬか生きるか。

それだけだよ、姉さん」

 ワイシャツを投げ捨て、赤いインナー姿になる天夜。

 もう手加減などしない、そう言っているような目つきに変わる。

「相手を殺す為だけに戦う人に、私は負けたくない。

勝負は、もっとお互いの気持ちをぶつけ合う熱いものこそが一番だよ。

行くよ、天夜。

私の全力を見せるよッ!」

 私も拳を構えなおし、そのまま地を蹴った。

 白金の炎に包まれるのを感じながら、私は飛び上がる。

 そのまま彼の顔面に拳を叩きつけようとしたが。

 彼は拳も握らず、腕を組んで闇を纏い始めた。

「ふぃやァッ!」

 すると、気合と共に闇の波動が四方八方へと放たれる。

 その波動は、私の腹に突撃し、数メートルくらい体を吹き飛ばした。

 体勢を立て直す暇も与えんと、再び瞬間移動。

「せぇッ!」

 同時に、勢いよく右肘を私の胸に叩きつけた。

 その勢いで仰向けに倒れそうになるが、炎を爆散させて体勢を立て直す。

 両手で床に着地し、魚雷の如く、炎を纏う両足で蹴り上げた。

「ふんッ!」

 両足が天夜の腹に突き刺さり、ずるずると後退する。

 先の技から間髪入れずに、私は炎の双拳の体当たり技《炎装乱舞(フレア・アーマ)》の体勢に入った。

「はァッ!」

 流星の如く突撃し、右拳を前に出す。

 その勢いで拳を叩きつける前に、天夜の闇の波動が迫った。

 しかしそれは、刹那に起こった出来事で防がれた。

 幾つかの雷の弾丸が、勢いよく闇の波動と激突し、相殺した。

「何・・・・・・?」

 天夜は弾丸が飛んできた方向に視線を向ける。

 そこにあったのは、魔法を唱えた後のポーズをとるマリーだ。

「アサミさん、私も協力しますッ!」

「マリーちゃん!」

「邪魔が一人増えたみたいだね、でもその程度で僕を倒せるかな?」

 言い切った後、瞬間移動。

 一瞬にしてマリーと距離を詰め、脇腹に向かって回し蹴り。

 だがマリーは、その時には次の魔法を編んでいた。

「フィールドマジック・ハイファイア!」

 マリーの四方八方から炎の弾丸が生成され、突撃する天夜を大きく吹き飛ばす。

「アサミさん、今の内です!」

「うんッ!」

 右手で白金色の炎の弾丸を生成し、勢いよく天夜に放つ。

 太陽フレアのようなものを噴き出しながら、弾丸は天夜に突撃。

「ぐおッ!」

 全身火だるまになった天夜が立ち上がり、上の赤いインナーを脱ぎ捨てた。

 そのままもがいた後、天夜は燃えながら全身に闇の気を溜める。

 爆散させると、炎はそれにかき消されてしまった。

「まさか僕に全力を出させるとはね。

フルパワーだよ、これが」

 全身に闇の気を纏う天夜。

 だが拳は握っていない。

何をするつもりなのだろうか。

「見せてやるよ、姉さん。

これが僕の本気だよ」

 瞬間移動によって、私の前に移動する。

 拳は握らないまま。

 その瞬間、天夜の全身から闇の気が放たれ、私は大きく吹き飛ばされる。

「拳も握らず、どうやって・・・・・・ッ」

 何をしたのかは分からない。

 分かったのは、何もせずに闇の気を放った天夜に大きく吹き飛ばされたことだけだ。

 今度はマリーの眼前に移動し、移動後ほぼゼロ秒でマリーの顎を殴りあげた。

「うわッ!」

 宙を舞い、そのまま床に叩きつけられるマリー。

 立ち上がれない彼女に、天夜は言う。

「君に魔法を使われると、僕の攻撃が阻まれてしまうかも知れないからね。

悪いけど、こうしておくよ」

 そのまま天夜は、空中まで移動し、両手を高く掲げた。

 中心に闇色の弾丸が出現し、徐々に巨大化を開始する。

 止めようと動くが、それは出来なかった。

 天夜は私が跳躍した程度では手の届かない位置にいる。

 遠距離攻撃も、天夜にはあまり効果が無かった。

 故に。

 詰んでいた。

「どうすれば・・・・・・」

 マリーを見る。

 まだ立ち上がるのがやっとで、杖を支えにして立っていた。

 これでは攻撃は難しい。

 そうこう考えている内にも、闇の弾丸は何かから力を吸収し、更に巨大化を続けている。

「アサミ・・・・・・。俺に任せろ」

 そう言いながら近付いてきたのは、斎藤だ。

 私に力を託した後で、まだ完全に回復はしていない。

 それでも戦おうと、立ち上がっていた。

「俺もだ、アサミ」

 研修医の男も、同じように近付く。

「私も忘れるな、アサミ」

 フタメもだ。

 皆が天夜を倒そうと、瀕死の状態から立ち上がった。

「ふっ、元々の戦闘力が低い人達が集まった所で、僕は倒せないよ。

一体、何をするつもりかな?」

 その声に反応した三人が、それぞれの構えをした。

 斎藤は右掌を向け、藍田は医療用のメスを握り、フタメは龍の拳を展開する。

「くたばれ、天夜ッ!」

 まず藍田が、天夜に向かってメスを投擲する。

 一直線に進むメスの切っ先が、吸い込まれるように天夜の腹を穿つ。

「ぐおッ・・・・・・」

 制御する力を失ったのか、両手が離れると同時に弾丸はその場から動くことなく霧散する。

 次いで斎藤の右掌から風の刃が放たれる。

 刃が天夜の上半身に傷を付けて消え去り、彼はもがき続けた。

「これで、最後だッ!」

 最後に龍の拳が、天夜の右腕に向かって進み、右腕を噛み砕く。

「ぐあああああッ!」

「今だアサミ! 止めを刺すんだ!」

 フタメの声に、天夜は驚愕の表情を浮かべた。

 実の姉に殺されることを、恐れているのだろうか。

 相手は弟だ。殺したくはない。

 だが、相手は同時に沢山の人の命を奪った者でもある。

 だから。

「さよなら、天夜」

 私は躊躇わず、両拳の炎を天夜に向かって光線状にして放った。

 白金の光は、ロケットエンジンから放たれる炎のように激しく、天夜の身体を全て包み込んだ。

 光が、激しさを増し。

 それをやった私自身も、耐えられず両目を閉じてから、もう一度を開く。

 

 気付けば、天夜の身体は綺麗さっぱり消えていた。

 服一つすら残さずにだ。

「天夜・・・・・・」

 弟の死を心の底で悼んでから、私は顔を違う方向に向けた。

 先程から椅子に座ったままだった、首謀者の方へ。

 


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