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第一話 狂った弟

僕は小さい頃から、《強さ》に興味を持っていた。

 自分が強いかどうか確かめる為に、親や一つ上の姉に内緒で、熊や野生動物と何度も殺し合いをしては、ボロボロになって帰ってきていた。

 四歳くらいの頃だろうか、五歳になった姉はゲームをするようになり、僕と遊ぶことは無くなっていった。

 でもそのおかげで、僕は隠れて獣と戦う機会を増やすことが出来。

 僕が五歳の頃、二年くらい僕の相手をしていた熊をやっと殺せた。

 

 だが、それが露見して。

 親は僕を恐れるようになった。

 

 姉だけは、幼く無邪気で無知な姉は、親が何故僕をそんな目で見るのか理解出来ず。

 自分の齢が六歳、姉が七歳の時。

 初めて、まともに会話した。

 僕と同じ青い瞳の、子供らしく丸く整った笑顔を見せながら姉は口を開く。

「お父さんとお母さん、どうして天夜ときちんと向き合おうとしないのかな?」

 その質問に対して、何も答えない。

 無知な姉と違い、子供離れして賢かった僕には分かった。

 ここでもし答えれば、姉も僕を見放すと。

 今はまだ、自分と関わってくれる存在が必要な事を。

 来るべき時が来たら、見放せば良いのだ。

「分からない・・・・・・姉さんと僕に違いなんて無い筈なのに」

 嘘だ。

 だが姉さんはまだ子供。バレる心配なんてない。

「そっか・・・・・・。安心して?

私は、天夜の事見捨てないからさ」

 この姉さんの発言も、後に嘘になった。

 

 数年後。

 犬や猫を殺すことに飽きた僕は、初めて人を殺した。

 十人の大人を簡単に殺した僕に、松田信繁という男が近づいた。

 松田という男が話す計画が気に入った僕は、早速彼の仲間になり、日本各地で何人もの人間を殺害。

 世間に僕を含めた名前が公表された時、僕は信繁の依頼で、北条家に戻ってきた。

 家族を殺せ。それが依頼だった。

 僕が十五歳の時だ。

 高校一年となった姉が部屋で、携帯ゲーム機で遊んでいるのを見た。

 その時、自分の心を怒りの感情が支配した。

 姉さんは、僕を見捨てないと言っていた。

 だけど、心配している様子にはとても見えない。

 先に姉から殺してやろう。そう思わざるを得なかった。

 

 僕は窓を割って姉の部屋に侵入。

 着地してからすぐに、姉を睨みつけながら立ち上がる。

「誰だ、君は!?」

「姉さん? 僕の事見捨てないって言ったよね?

何嘘ついてるの?

僕信じてたのにさ。なんで?なんでなんでなんでなんでなんで?」

 気づけば、姉の近くに接近し、首にナイフを向けていた。

 そいつは誰だ?

 姉? 違う裏切り者だ。

 見捨てないと言ったのに、僕を止めようともしなかった。

 もう少し賢いと期待していたのに。熊を殺していた時点で僕のやっていたことを見抜き、止めてくれれば死なずに済んだのに。

 残念だったね姉さん。

 そのまま首にナイフを差し込もうとするが、自分の中にある家族愛という邪魔な感情に阻まれる。

 ナイフは動かない。

 そのまま僕は、ナイフを持ったまま倒れこんだ。

 

 勿論、逮捕された。

 パトカーに乗せられる前に意識は覚醒し、家族の顔が見えた。

 姉もやはり僕の顔など見てくれず、そのまま家へと戻って行った。

 僕は、泣いたことなど無かったが。

 僕は物心ついて初めての涙を、パトカーで流したのだ。

 

◇◇◇

 

 彼は震えていた。

 目の前にいる者が持つ、圧倒的な迫力に。

 彼の目の前にいる人物は、彼や他の幹部達を率いる首領が異世界から連れて来た人物らしい。

 そいつは既に、元の世界で一度死んでいるらしい。

 その男の頭上には、死人の証である光輪が輝いている。

 

 光輪より下の方、彼の容姿や身なりを観察する。

 しかし、彼が感じた迫力は、見た目からは感じ取ることは出来ない。

 大人しい感じの茶色の髪。

 そして、中性的な整った青い瞳の虚弱そうな顔。

 赤い、あの勇者が纏っている服を模した服の上に、黒いコート。

 誰もが、彼を弱そうだと判断するだろう。

 だが、彼から放たれているのは、圧倒的な闇だ。

 もしかしたら、彼すら殺すかも知れない圧倒的な闇。

「ねえ、何時までも黙ってないで何か言ってよ」

 二人きりの空間で、かなり長い沈黙を破ったのは、少年の方だった。

「ここが僕の世界とは違うってことくらい、雰囲気で分かるよ。

それで、こんな如何にも悪の組織じみた場所にいる理由も、僕の力が必要だからなんでしょ?」

 一方的に話し続ける少年をよそに、彼は想う。

 この少年は、異常だと。

 普通の人間なら、いきなり異世界に来て、こんな冷静な判断が出来る筈がない。

 恐らく、彼は元の世界でも異常な人間だったのだろう。

「ねえ、早く何か言えよ」

 少年がそう呟いた瞬間、少年が放ち続ける気が更に大きくなるのを感じた。

 青い瞳は細められ、そこからは殺気が。

「分からないなら、これを見たら?」

 少年は右掌を彼に向ける。

 掌から放たれた光は、彼の頭に当たった。

 激しい頭痛を感じると共に目を閉じると、映像のようなものが見えた。

 まず、坊主頭の凛々しい青年が死んでいる姿。

 科学が得意な大学生の女が吐血している姿。

 それ以外にも、彼が殺したと思われる者達の顔が現れ。

 そして、最後の光景。

 牢獄のような場所で、少年の前に立つ男が一人。

 灰色のツンツンした髪に、紅い奥二重の双眸。白い白衣の下に、白い衣服。その真ん中には赤い布。

 男は、短剣のようなものを持っている。

 恐らく、少年と男は戦おうとしているのだろう。

 その映像も消えた後。

 背中を向けて歩く少女が現れ、すぐに闇へと溶け。

 再び視界は暗く染まった。

 

 眼を開ける。

 少年は少し笑っていた。

 右掌を下げると、再び口を開く。

「へー、まさか本当にこんなことが出来るなんて思わなかったよ。

首領みたいな人がこの世界で戦う為の力を少しだけあげるって言ってたから、ありがたくいただいたんだけどね。

その力って、元の世界で悪いことをした人程強い力に変化するらしいんだけど、首領も流石に驚いてたよ」

 少年があの術と共に送って来たのは、映像だけではない。

 経歴もだ。

 殺した人間は千人を超える、強さの為に非道なことをしてきたらしい。

「あ、自己紹介しなきゃね。

僕は北条天(ほうじょうあま)()。それにしても、こんな所に来るなんて思わなかったよ。

地獄は退屈だったよ?」

 少年――――天夜は何らかの反応をしてくれることを彼に求めているようだが。

 まだ口を開かない。

「ねえ、さっきから口を閉じてるけどさ。

殺されたいの?」

 やれやれ、面倒だ。

 この質問に答えてやろう。

「お前程度に殺されるほど弱くはないさ」

「のわりには、動揺してるよねさっきから。

君さ、多分怖いんじゃないかな?

僕の事が」

 今も青い瞳から放たれ続ける殺気。

 彼は想う。

 首領様は、なんでこんな人物を自分の配下にしたんだと。


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