第2話『動き出す陰謀』
ーーシャイント城。
アルファルト王国の中心部にそびえ立ち、全ての者を見下ろす荘厳な建造物。
外観は所々に黄金がふんだんに使用されており、石材とのコントラストが絶妙なハーモニーを生み出しているオシャレと言えるものでもある。
そこに住むのは当然、国王とその家系の者たち。
故に現在も玉座では、第149代目国王パーシヴァル・ファンタジアがふんぞり返っていた。
白髪混じりの金髪、フサフサに蓄えた髭。
服装は今の世の中では珍しいシルクで生成された服の上に、真紅のマントを羽織っているといういかにも王様だぞという感じの身なりをしていた。
そんな自らの威厳を辺りに知らしめるかのような格好をした彼の前に頭を垂れ、跪く者が1人。
王城騎士団団長、ジャック・トリトゲイルだ。
制服の型を崩さずキッチリと着こなし、帯刀してあるレイピアの柄が輝く。
真面目に整髪料などは使わず、黒髪が素の状態で存在。
また、顔は整っているのだが、それが消し飛ぶ程の迫力の鋭い三白眼。
常に瞳孔が開いている彼の黒目に映る国王はやがて口を開いた。
「ジャック。今回君たち騎士団に頼みたいのは人探しだ」
「人探し…ですか?」
「あぁ、そうだ。特徴は大臣たちがリストアップしてくれているからな。それを参照するように」
「御意」
短い会話の中で全ての仕事内容を確認したジャックは足早に玉座の間を出る。
そんな騎士団長の後ろ姿を見送った国王は、まるで残酷な殺人者のような笑みを讃えた。
「これでお前を見つけることが出来れば……私の勝ちだ!はっはっはぁぁぁぁ!!!」
「お父……様……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁはぁ……」
「な?い、言ったじゃろ?」
肩で弾むような息をする俺は、地面に倒れ込む。
やっぱ、調子に乗って使うんじゃなかったぁ……属性能力。
「ジジィ……譲れぇぇ……」
「どんだけ執念深いんじゃ!?譲れんもんは譲れんわ!」
ふっざけんなよぉぉ……1晩くらいいいじゃねぇかよぉ…
そう思い始めていた時だった。
ガシャンと音が聞こえたと感じた直後、俺は脇腹に生じた痛みと共に宙を舞った。
そして、重力に素直に従った我が身体は地面へと叩きつけられる。
うめき声を上げながら、まるで亡霊のような様子で『加害者』に視線を向ける俺。
そこにはよく見知った顔。ていうか、見知らぬはずがない。
なぜなら、こんなことをして来るのはこのスラム街でただ1人だからだ。
「おーい……テメェいっつも俺の行動の妨害してくんのなぁ?何お前?俺のファンなの?」
「んなはずないでしょッ!?馬鹿言わないで!」
長く伸びきった赤毛に琥珀色の目、スラム街で暮らしているせいで顔は煤だらけになっているが、よく近くで見ると喉から心臓が飛び出るほどの美人だ。
どこから盗ってきたのか分からないが、作業着のような物に身を包んだ彼女は愛車のマウンテンバイクから降りる。
その際に服の上からも分かるほどの彼女の豊満な胸が揺れたが決して気にかけてはいない。
「でぇ?今日もまた自転車にのって善行でもしてんのか?」
「そうよ!アンタみたいな馬鹿は私の正義のマウンテンバイクで蹴散らしてやるんだから!」
「おっかねぇ……」
身震いするフリをする俺。
これに冷ややかな視線を向けていたジジィがやがて声を出す。
「フェイや、久しいのぉ」
「あ、おじいちゃん!久しぶり!」
フェイナ・カル。それが彼女の名だ。そして、ここにいる老いぼれがヴィクセン・カル。つまり祖父、孫の関係にあたる。
「つーかフェイ。お前、今日の寝床決めてんの?」
「あ、忘れてた」
「ワシ譲ってやってもいいぞ?」
「はぁ!?おい、ジジィ!!なんで孫には譲るんだよ!」
「だって孫じゃもん」
「じゃあー俺がもし孫なら譲ってくれましかー?」
「それは……」
「『譲ってやる』って即答するとこだろ!?そこはぁぁ!!あぁぁムカツクぅぅぅ!!」
地団駄を踏む俺の怒りのボルテージは最高値をとっくに通り越していた。
ヤベェ……これ以上このジジィの相手をしていると頭がおかしくなりそうだ……!
そんな危険を察知した俺は「このハゲェ!!」と捨て台詞を吐きこの場所から足早に撤退することにした。
背後から「まだギリギリハゲてないッ!!」と激昂したジジィの声が聞こえてきたが気にしない。気にすれば負けだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あれが目標か」
「そうですね団長」
「よし……ヤツに気づかれぬように包囲網を取れ。俺たちならできる……作戦開始」
「「「全ては国王陛下の為に!!」」」
ーーヴァレン捕獲作戦……決行。