スネークハンター・俺!
「あー疲れた。」
会社からの帰宅中、俺は必ず一度はこの言葉を呟く。
最寄り駅を出たところでこの言葉を呟くと、少し疲れが取れる気がするのだ。
ま、気のせいなんだろうけど。
でも愚痴は良いよね、心の疲れが少し排出される気がするよ。
秋になって少し涼しい風が気持ちいい。
俺は子供ころは千葉の農地に住んでいたけど、この時期なら18時を過ぎればれば周りは真っ暗だったものだ。
でも今住んでいる品川区では、もう22時を過ぎているのに明るいし、学生だって普通に歩いている。
産まれたときから東京に住んでいる人にはわからないだろうけど、東京は住宅地だって都会なんだ。
そんな事を考えながら歩いていると、道の脇で若い夫婦風の男女と一人の警官が止めてある車を見つめて困った顔をしている。
なんだ?トラブルか?
おれは好奇心で近づいてみる。
ああ、なるほど。コレは困るわ。
一目でそう思う光景だった。
その止めてある車のタイヤと車体のスキマに蛇が頭を突っ込んでいた。
そして半端に頭を突っ込んだせいで抜けなくなってしまったようで、その状態で身動きをしない。
もしかすると昼間のうちに突っ込んだけど、夜になって寒くなったから動けなくなったのかな?
若夫婦と警察は、車から伸びる蛇を前にどうして良いか分からず困っているのだ。
まあね、こんなことで呼ばれる警察も困るよね。
動物の世話とか仕事じゃないだろうに・・・・。
そう思っていたら、向こうから若い警官が小走りで走ってきた。
「派出所から網を持ってきました。これで対応しましょう。」
若い警官の手には明らかに動物を捕まえるような網が握られている。
前言撤回。警察は動物の世話も仕事のうちみたい。
だが蛇のように小さい動物は網で捕まえるのは難しい。
地面と胴体の間に隙間がないので、網で掬い上げられないのだ。
眺めながら思う
頑張っているのは分かるが何か違和感がある光景。
うーん、何が違和感なんだろう。
そしてハタリと気づいた。
この人たち、なんで蛇を掴まないんだ?
掴んで袋に入れればすぐ終わるじゃん。
しかし、掴もうとする人は誰も居ない。
へへ、東京人は蛇程度で腰が引けているのか?
いつも東京人だからって偉そうに(俺偏見)しているくせに、実態は貧弱ボウヤだな。
まったく、しょうがない連中だぜ。
俺は無言で蛇に近づく。
警官と若夫婦はイキナリ俺が近づいてきたので驚いたようだが関係ないね。
東京人よ、田舎モノの本当の力を見せてやるぜ。
まず尻尾を掴む。
周りか驚いたであろう雰囲気が伝わってくる。
確かにもしも毒蛇だったら危ないかもしれないが、この蛇は大人しいシマヘビだから大丈夫。
あ、東京人はシマヘビと毒蛇の区別もつかないのかな?これは失敬失敬。
有無を言わさず俺はヘビを引っ張り出した。
引っ張り出されて持ち上げられたヘビは、頭を俺の手に向けて持ち上げてくる。
「キャッ」
若夫婦の奥さんが軽く悲鳴を上げる。
まあ慌てるな、奥さんよ。
俺は冷静に尻尾のほうから頭に向けてヘビをザザっとしごいた。
するとヘビはもたげた頭から力が抜ける。
だらりと力なくブラ下がった。
ヘビは尻尾のほうから頭に向けてしごくと、鱗が逆立って気絶するのだ。
元気なヘビでも素早く2~3回尻尾から頭に向けてしごけば気絶する。
子供のころから何度もやった遊びである。
おっと、動物保護の苦情は受け付けないよ。
気絶したヘビをホイっと自分の肩に掛けて両手を開ける。
そしておもむろに持っていた鞄から、お昼の弁当を買ったときにもらったけど、捨てることも出来ずに入れてあったコンビニ袋を出した。
袋に無造作に気絶したヘビを入れて警察に渡す。
「はい、どうぞ。ヘビはこの状態でも1週間くらい死なないから空気穴とか考えないで大丈夫ですよ。」
そんな子供のころの経験則も教えてあげる。
どや!俺って凄い&親切。
さて、田舎モノの偉大さを示せたし家に帰って寝るか。
背を向けて歩き出そうとすると奥さんが急に俺を呼び止めた。
「待ってください、あなたは何者ですか?」
一瞬「は?」と思ったが、振り向くと奥さんは真面目な顔をしていた。
うーん、何者って聞かれても困るよね。普通の会社員です。
いやいや、もしかして俺は今試されているのでは?
都会人から「さあ、この問いかけにどう返す?」という挑戦か?
都会人に響くユーモアで返さないといけないな。
うーん、1秒ほど悩み、俺は自信満々に答えた。
「俺はスネークハンター、ヘビの事ならお任せあれ」
二人の警官と旦那さんは思わず吹き出してくれた。
やった!
おれのギャグは東京人にも通じるぞ!
だが奥さんは斜め上な感想を持ったようだ。
「え、スネークハンター?あの、スネークハンターってお仕事は儲かるんですか?」
え?
「え?」
「え?」
「え?」
その場に居る奥さん以外の全員が驚いてしまった。
えーっと、奥さんだけが今のをジョークと受けて止めていないと。
うーん、困ったな。
旦那さんと警官二人は苦笑いを俺に向ける。
まあ、そうだよね。
でもなんかアレですよ。
不思議と俺は期待にこたえないといけない気がした。
サンタを信じる子供を前に、「サンタは居る」という嘘を重ねないといけない大人の気持ちと言えばわかってもらえるだろうか。
天然系のこの奥さんの夢を壊すわけにはいかない。
乗りかかった船だ、もう押し通すぜ。
しかし長々説明したらボロがでる。
短く夢が膨らむような表現をしなければ。
さあ女優になれ俺。
いや男だから男優か?
いやそれだとAVに出そうだから役者が良いや。
さあ役者になれ、俺。
スネークハンターになりきるのよ。
腕利きのスネークハンターならどう答える?
役になりきった俺は自信満々な表情で奥さんに笑顔を向ける。
「いくら儲かるかですか?コレ次第さ」
そう言いながら自分の腕をポンポンと叩いて見せた。
奥さんを「おおー」と小声で呟いたので納得したのであろう。
俺は悠然と彼らに背を向けて帰路についた。
後ろから奥さんが「ありがとう、スネークハンターの人」と叫んでいる。
俺は振り返らずに、肩越しに手だけ振ってその場を去った。
数日後
『品川区にはスネークハンターが居る』
という記事が品川新聞に載った。




