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化物の想い  作者: paradox
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「チッ、ここか……ここまで来るのが面倒だったな」


「今日だけで、二人か……ここ暫くかのような事はなかったが、良かろう此度は興が乗って来た」


『我』は高揚する自分を抑えられなかった、それが何故なのか解らなかった。


理解しようとしようともしなかった。


ただ目の前に人がいる事を嬉しいくて仕方がなかった。


「ケッ随分と饒舌なやつだな……舌ぁ噛むなよ!!」


男は背中にある鞘に納めていた大剣を引き抜いて戦闘体勢に入った。


『我』はいつものように立ち止まっているだけ。


持っている剣が折れればその者の心も折れるから。


するとその態度が気にくわなかったのか男は正面から『我』は何処から来ようが無駄だと想っていた。


だが鮮血が飛び散ってそれが男の流したモノではなく自らの身体から出たモノだと理解すると同時に我は駆けていた。


思い出した傷つくのが嫌だったことを……。


男は笑いながら殺意を向けてくる。


その眼に『我』は不愉快になる。


思い出したその眼が嫌いだったことを……。


男は大剣を片手で振るいながら短剣を投げる。


短剣が腕に刺さり血が流れ、動きが鈍くなったところを更に追撃してくる刃が斬る。


思い出した剣の鈍い輝きが、自分自身の研ぎ澄まされた化物の爪が嫌いだったことを……。


「なぁ、人から化物になった例は今までに何件も目撃されているが逆はどうなんだろうな……」


思い出した化物と言われたことが、その時の悲しみが、逃げ出してしまった自分が嫌いだったことを……。


「ずいぶんと余裕だな」


我は男に爪で攻撃すると男は大剣で防ぐがその衝撃で大剣は砕ける。


男は折れた大剣を見て数秒止まる。


これでようやく一人になると安心した。


「テメェ、何余裕出してんだ?勝負はこれからだろ」


男は笑いながら言う。


その拳に包帯のようなモノを巻き付け構える。


素手で戦う気のだと理解するのに時間がかかった。


このような者は前例になかったから。


思い出したケンカするのが、誰かを傷つけるのが、恨むことが、怒鳴ることが大嫌いだったことを……。


男が『我』を殴る、そしてカウンターとして男の身体を殴る、殴って殴られて殴り返されて殴り返す。


痛かった、身体がじゃなくて心が痛かった。


目の前にいる人を傷つけている自分、敵意を向けて自分を殴る男、ケンカをしていることが大嫌いだったことを思い出す……。


ケンカが嫌いなのにあの時してしまった自分が受け入れられなかった、古い記憶に残る悲しみの日、目の前に血を流すケンカをしてしまった大切な友だちがいた。

男はピタリと拳を止めた。


「やめだ、泣いてる奴を殴るなんて義に反する。なぁ一緒に来ないか?お前の名前を教えてくれよ」


男は右手を差し出して笑った。


思い出した、誰かの笑顔が好きでいた自分を、人の心の温もりを、人だった頃の自分を、そして会話と言うものを……。


自分でも知らぬうちに男の手を掴んでいた、その手には力は入っていない。


「俺はアル、アルフォンドだから……アルだ」


『私』は自分の身体からまるで泥のように力が抜け落ちるのを感じながら名前を言った。


「ユメ……それが私の名前」


私は久しぶりに自分の名前を言う 。


「ちょ!?ユメお前!?」


アルは『私』を見て顔を赤くした。


『私』は自分の身体を見る。


白くて細い身体、けど胸だけはそこそこ大きくて長い銀色の髪が前髪でも胸の辺りまで降りて来ているのを……。


『私』は涙を流した身体が人間に戻っているのを理解したからだ。


近くにあった鏡を見るとちょうど化物になった十代中ごろと同じような顔をしている。


「私……人間に戻った、夢が叶った」


『私』は嬉しさに床に座り込む。


涙が止まらなかった。


「そうじゃねぇって服!!なんかないのか!?」


「ないよ」


アルは舌打ちをしながら『私』に自分が着ていた上着を羽織らせる。


「仕方ねぇ、依頼報告がてら近くの村でお前の服を買うか」


アルは『私』を両手で抱えて塔を出る。


空に浮かぶ太陽が眩しくて温かった。


それ以上にアルの身体が温かくて懐かしい感覚を思い出させてくれた。









森に囲まれた村の奥に古い家がある。


そこには見覚えがあった古い記憶に焼き付いている。


アルは足でそこを開けると『私』を抱えたまま中に入って行く。


「ばぁさん依頼はクリアしたぞ、アンタの望んだ最高の形でな……ほら報酬としてちゃんと教えろよ」


アルが大きな声で言うと杖をついて歳いった老婆が出てきた。


『わたし』は思わず忘れていた記憶の人の名前をつぶやいていいた。


「ティアリー」


その声を自分の耳で聞いてから『わたし』は目の前にいる老婆がティアリーだと気が付いた。


老婆はしわのある顔を笑みに変えて『わたし』を抱きしめた。


「ユメ……あぁ、ユメ戻ったんだね……。人間に戻れたんだね」


『わたし』はティアリーのに両手を回して涙を流した。


その時アルが羽織らせてくれた上着が床に落ちるがそんなこと気にもしなかった。


「おいばぁさん感動の再会のところ悪いけどさ、約束通り世界で一番と言われた女に会わせてくれよ」


「そんなの目の前におるだろう、ユメは十三の時にそう言われていたのだからね」


ティアリーは低い声でアルに言う。


アルは参ったと言うかのように両手を肩まで上げた。


「仕方ねぇ、ユメ。お前俺と一緒に旅するか。今は感動を続けとけ。仕度は俺がしとく」


アルは家から出て行きながら言った。


それが照れ隠しなんだろうと想いながら『わたし』は目の前にいるのが老婆ではなく自分もティアリーも子供の頃に戻ったかのような感覚になっていた。


「ユメごめんね、私があの時酷いことしたから……それに謝りにも行けなくて今まで独りにさせて……」


「いいの、また……会えたから」


眼を閉じていても見えていた森の中話していた『わたし』と子供の姿をしたティアリーは幼かった頃のように手を繋いだ。


「ユメ、ありがとう……さようなら」


その言葉に『私』はハッと我に返る。


ティアリーは冷たくなって『私』に倒れ込んで笑顔で亡くなった。


それでも寂しくはなかった、独りじゃないから、心で繋がっている。


そう想えたから……『私』はティアリーをベッドに寝かせて、近所の人にティアリーの事を教えた後アルがいた酒場に入る。


「アル……終わったよ」


「…………そうか、でも次の始まりだろ」


「うん……」


『私』は笑顔で頷いた。


化物になっていた『我』は子供の時の『わたし』を取り戻して大切な事を失う前の『私』は新しい人生を始める。


化物であり人間……心のありようで人は変わる醜くもなる。


それも受け入れて『私』は止まっていた明日を歩。


新しい夢を抱いて……。



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