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化物の想い  作者: paradox
2/3

現実

「ゆめ……人だった頃の……」


『我』は眠りから覚めると周りを見る。


変わることのない身体、掠れていく自我と理性。


どんなことが人間の常識であったのかなんて忘れてしまった。


遠くから『我』を『現実(ばけもの)』が見ている


どうしてあの時こんな身体になったのか忘れてしまった。


なにが良い事でなにが悪いことなのか忘れてしまった。


人の温もりを忘れてしまった。


自分が人であったことも忘れかけていた。


自分がどうなりたいのか忘れてしまった。


大切な人の名前を忘れてしまった。


自分が化物であることを自覚した。


自分が憎まれそして人の敵であることを理解した。


自分の力の強さを思い知らされた。


人の叫び声にはもう何も感じなくなっていた。


来たものは立ち向かう意思がなくなるまで力の差を思い知らせ逃げる者は追わない。


そこまで来て思い出した。


忘れていた自分の夢を……叶うことのない当たり前だった毎日が鮮明を思い出す。


「あれから五十年か……」


我は人間の時より遥かに強くなった身体で塔を降りる。


逃げ込んで来たときと景色は変わらない、変わったのは血の跡が付いているくらい。


どれだけ待っても理解してくれる人は来なくてどれだけ時が経っても人に戻ることはなかった。


腕だけだったはずなのに今では身体全体が化物となっている。


鏡を見てどんどん化物になっていく自分を見て泣いていたのを思い出す。


今ではもう何の感情も湧き出て来ない。


「化物め、今日こそ殺してやる!!怪我をして倒れた兄の敵、今ここで!!」


威勢よく入って来た人間を見る。


身長差はそんなにない、『我』の身長は十代そこらと変わらない。


けれど解ってしまう化物である『我』は他の奴らとは違い肉体を大きくしたのではなくその分を凝縮したタイプなのだと。


剣を振って『我』に攻撃した男は驚愕の目をしてたじろぐ。


それもそうだ微動だにしなかった『我』に攻撃を当てられたと歓喜した瞬間剣は折れたんだからな。


それに加えてその衝撃で手が痺れて満足に動かせていないようだった。


『我』は男の右腕をへし折った。


「うせろ」そう言っただけで腰を抜かした男は折れた右腕もいとわず四肢を慌てて動かして逃げていった。


そこでようやく思い出す『我』人間だけは一人も殺さなかったことを。



また誰もいなくなる、寂しくなんかなかった、また誰か来ることを知っているから、一人ではないから……けど独りであることは頭の何処かで理解していた。

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