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Eve  作者: 日生
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2.選定の儀

 翌日、イヴがのこのこ王宮へ出向くとすでに凄まじい人だかりができていた。

 城門の前に、実に様々な種類の人間が集まっている。男もいれば女もおり、身なりのよい者もいれば普通の者もいる。ただし乞食は混ざっていなかった。

「あの、剣を抜きに来たんですけど」

 人ごみを抜け、門兵たちそう言うと、彼らは互いに顔を見合わせた。

「お前が・・?」

「・・いやしかし、志願者はすべて通せとのご命令だからな・・・」

「ああ・・そう・・だったな」

 一応簡単に素姓などを問われたあと、ますます釈然といかなくなった様子の兵士らに渋々と通され、イヴは王宮へと足を踏み入れた。

「うわあ・・・もう貴族さまになれたみたいだなあ」

 それこそ上流階級しか入ることの許されない場所に、来られただけで感動だ。このまま素晴らしい庭と建築を眺めて帰ってもイヴは十分満足できそうだった。

 案内に沿って歩いて行くと、程なくしてまた人だかりがあった。屋根の尖った白い建物の、荘厳な両扉が開け放たれ、中には城門前とはまた趣の違う人間たちが詰まっていた。イヴのところからは鎧に包まれた彼らのたくましい背中だけが見える。その先に何があるのかはまったくわからない。

 扉の向こうは、時折野太い歓声だか悲鳴だかが上がるだけで、やけに静まりかえっていた。

 見上げると天井は吹き抜けになっており高く、屋根に近い場所に設置された窓から降り注ぐ光を、床の大理石や青白い石の柱が反射して眩しいくらいだ。

 しかし中に入っていくら飛んでも跳ねても、屈強な男たちの居並ぶ先が見通せない。

「あの、剣を抜きに来たんですけど」

 皆、前にある何かに注目しているせいでイヴの呼びかけに気付かない。掻き分けてゆこうにも隙間すらない。

「この先に剣があるのかな? ここにいるの、みんな剣を抜きに来た人? こんなに見られてたら緊張しちゃうなあ」

「いいから行ってきなよ」

 誰かに突然、背を押された。

「ふあっ!?」

 次の瞬間、イヴは宙に浮き上がり、放物線を描いて男たちの頭上を超えた。

「みぎゃぁぁぁあああぁあぁぁぁっ!?!?」

 結構な高さから、イヴの小さな体は下降する。しかも運の悪いことに、着地点には棒状の物が突き出していた。

「ふぎゃああああっ!」

 咄嗟にイヴは両手を伸ばし、棒を掴んだ。

「むぎゃうっ!」

棒への顔面激突は防げたものの、そのまま倒れ込んで石の床にはまともに激突した。

「う・・ううぅ・・」

 痛みと混乱で涙が出そうになったが、なんとか堪え、起き上がる。

 するとそこには、大勢の人間が呆気に取られている奇妙な光景が広がっていた。

「・・・?」

 気付けば、イヴは衆人の前、低い段差を二段ほど上がった円形の台の上に座り込んでいた。円の中央、つまりイヴの側には四角い小さな台座が据えられており、そこにはまるで何かを刺しておくような溝があった。

 そして最後に、イヴは己の手元に視線を落とした。

 クロスを模した金の柄の先に、白刃が付いているそれは、剣、だった。

「―――」

 イヴは、ゆっくりと、両手で剣を掲げた。

天から降り注ぐ光を反射し、刃はまばゆいほどの輝きを衆人に示した。

「―――選定の儀は、終了した」

 凛とした声が場に響き渡る。

 声の主は段差を登り、イヴの傍らに膝をついた。

 首筋に纏わる少し長めの金髪に、深い紫紺の瞳を持つ男だった。複雑な刺繍の施された衣装の上に紺の外套を羽織る姿は、ただの貴族や平民ではあり得ない。

「お前の名は?」

 よく通る、落ち着いた低い声で問われた。きっと、男は普段から声を誰かに届かせる仕事をしているのだろう。イヴに対し穏やかに笑いかけるのは、どうすると卑しい者は怯えてしまうのか、熟知しているせいだろう。

「・・イヴ・・」

「それだけか?」

 頷くと、男は立ち上がった。

「《聖剣の騎士》は選ばれた。新たなる騎士の名は、イヴ。これにて選定の儀の終了を宣言する」

 歓声よりも、どよめきの方が大きかった。

「イヴ」

 目の前に、手を差し出された。

「行こう」

 足元のおぼつかないイヴを、男が支えるように引き寄せて、歩き始める。後ろでは何人もの兵士が壁となり、衆人たちを遠ざけていた。

 まるで罪人のようだった。

 これから処刑台にでも行くのだろうかと、イヴは混乱しきった頭でぼんやりと思った。

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