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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編シリーズ~名もなき黒猫~

名もなき騎士

作者: ネムのろ




名もなき騎士





「まぁたお前か!何度来ても同じだっつてんだろが!出ていけ!」


店の亭主が足元の黒猫目掛けて箒を振りかざした。

その攻撃を優雅に避けた黒猫。


―ちっ。相変わらずケチなのは変わりゃしねぇな。


そう、ぽつりと亭主に向かって毒つく。


「ったく。猫だってのにこいつは何で舌打ちなんかしてんだよ。」


可愛くねぇ。そう言いながら追い払った黒猫の姿を

彼は遠くから眺めた。


今回のお話は、そんなみんなの嫌われ者の黒猫に

スポットライトを当てた物語―――…


俺の名とも言うべきものは、生憎持ち合わせていない

気が付いたら街の隅っこの道路の端っこに

ダンボールの箱に入れられてた。

大きな紙が貼ってあって何か文字が書かれていた。

まぁ、今となって分かるが俺は誰かに捨てられたんだろう。


いいさ。別に。人間なんぞと言うやつは皆

そう言う生き物だ。拾い上げたと思いきや、捨てる。

俺もその内の一匹だったらしい。諸々に覚えているんだ。

兄弟の中で俺だけが黒猫として生まれちまった。

それが俺の運のつきだったらしい。


捨てられる前の親の話を聞いた。

母ちゃんと父ちゃんも子猫のころ捨てられて

それで人間の子供に拾われて育ったらしい。

だが、それが子をなし得れば話は変わる。

他の兄弟は貰い手が見つかったが

俺は黒猫。忌み嫌われ誰も欲しがらなかった。


ゆえに、捨てられると言う道しか、

俺には用意されてなかった。


それも大したことなど無いと思ってる。

飼われてちゃ、色々不便だと子猫なりに感じてたからな。

しつけやらなんやら。面倒だった。

まぁ、エサをくれたりしてくれるのは楽だった。

野良は自分で狩るか誰かに貰うかだ。






「たく。今日もネズミか。」


そう言いながら目の前のすでに動かなくなった獲物を見つめ

口をあけ、その肉体を食いちぎろうとした時だった。


「助けて!!」


人間の女の子の声が聞こえてきたんだ。

もちろん、猫の、しかも野良で黒猫な俺が

出る幕じゃないことは分かってる。

猫風情が人間様に何かできるとも思っちゃいねぇ。

シカトするに限る。面倒事は御免だぜ。


「だ、誰かぁ!!」


―ちっ。うるせぇ餓鬼だ


その低い声は、女の子の声の後に聞こえてきた。


―大人しく俺に噛みつかれろ。それで俺のしっぽ

踏んだ事無かったことにしてやるよ。


その声の主が安易に想像できて、そして

俺の中に眠っていた“何か”を呼び覚ました









それは、私がお買い物に出かけた時に起こった事だった。

いつものように帰りに駄菓子屋によって

ソーダを飲んでいた時に、野良犬のしっぽを

踏んでしまった。


やばい。そう思ったのも束の間で

後ろのほうで低い唸る声が聞こえてくる。

恐る恐る振り返ると、そこには

茶色く体がおっきい犬が、こちらを睨みつけていた。


「た、助けて…」


思わず口から零れた言葉。

でも、生憎と言っていいほどに、とても弱く

か細く出た言葉は、誰の耳にも届いてはくれなかった。


「た、助けて!」


今度は少しばかり上ずってはいるけれど

ちゃんと声に出せた。でも、最悪なことに

今いる場所は草原で、ほとんど誰も周りに居ない。

居たとしても遠くて聞こえない。

そして、さらに、その犬には首輪もない。


野良犬だ…


最悪だと思った。

そうして、やっと“この場は危険だ”と

信号が体中に廻り、“走って逃げる”と言うことを

思い出した私は、背中を向け走り出した。


のが、いけなかったのか


犬はここぞとばかりに追いかけて、そして―――

私の喉笛目掛けて噛みつこうと襲い掛かってきた。


もう駄目だと、そう思ったとき。

黒美やかな何かが、その犬の眼目がけて突進した。


『ギャン!』


犬の悲鳴が聞こえて、地面に

華麗に四本足で着地した黒猫が見えて

目の前に起こった出来事なのに

まるでお伽のお話みたいな夢心地になった。


そう、私はたった今


一匹の黒猫に助けられたのだった―――…









―俺の隙を見て目をやるたぁ、お前さん大した奴じゃねぇかぁ。


―ふん。お互い野良なら分かり切ってる“ケンカ”のルールだろ。


―知らなかったな。ケンカにはルールなんて

生易しいモンがあったなんて。


大きな巨体を目にしても、目の前の黒猫は微動だにしなかった。

それどころか、不敵に笑ってさえいる。


―手を引け。なんて言っても犬のお前は引かねぇんだろ?


―分かってるじゃねぇか。お前もそこをどけ。と言われて

どく玉じゃあねぇことも分かってるぜ。黒墨やろう。


そう言うが早いか、茶色の猛犬は黒猫に襲い掛かった。

前足での黒猫の頭めがけて一発。

ドスンという鈍い音が、最悪の展開を女の子に想像させた。


―…こんなもんかぁ?名高き『茶色の番長犬』さんよぉ


―何?!


砂埃が晴れれば、そこには

地面を叩いただけに終わった自分の前足。


そして、横には待ち構えてたと言わんばかりに

黒猫が自分の手から爪を出し

それを思いっ切り犬の巨体へぶっさした。


『ギャぁあン!!』


―おうおう、大層な声で泣きますねぇ。番長さん?


そう言いながら黒猫は

まだ犬の巨体に突き刺さってる爪を生かし

そのまま上へ蹴り上げた。


ドスリと地面に落ち、それでもギロリと睨む犬

だが、そのままくるりと体の方向を変えた。


―止めだ止めだ!人間が見てる前で俺たちの素性明かすわけには

いかねぇ。“野良のルール”。そんくらい分かってんだろ小僧。


―…最初にそれ、破ったのお前じゃ…


―だまらっしゃい!


犬は大きく咳払いし、俺の暴走止めてくれて、あんがとな

と言いつつ黒猫たちとは反対方向へと進んでいく。

そして最後に黒猫へ『この借りはいつか倍にして返す』

といい、向うへと姿を消した。








「す、すごい…」


女の子は素直な感想を口にしていた。

その言葉に反応し、顔だけを向けた黒猫。


「黒猫さん、助けてくれてありがとう!」


その言葉に面喰ったのは黒猫だった。


―ありがとうだと?人間がお礼を…こりゃあ面白い。


人間なんぞ、いくら助けても、礼を言う分け無いと思っていた。

だってそうだろ?俺は黒いってだけで

人間の手で捨てられたんだ。情なんてないものとばかり。

そうか、俺の見てきた人間はごく一部のやつらだったか。


こりゃあ面白い。もっと観察するためしがあるな。


―いいからさっさと帰りな。


そういう俺の言葉も分かってはいないだろうが。








犬をやっつけてくれた黒猫さんは

私がありがとうと言うと、後が豆鉄砲を食らったかのような

へんてこな顔をした。私の言葉が分かっちゃうんだね!

そして、まるで、そう言うとは思ってなかったみたい。

恰好良い猫さんだと思った。

優雅で、黒く輝くつやつやの毛。

身体はスラッとしてて、目は切れ目で空の色をしていた。

綺麗な猫さんだった。そのネコさんも野良だと分かった。


だって、飼い猫はこんなに鋭い眼はしていないから。

真っ直ぐで、どこまででも突っ走って行けるような

不思議な目をしたネコさんだった。


『ニャーオ』


そう一声鳴くと猫さんは後ろを振り向かず

真っ直ぐそのままどこかへ消えていった。








「まぁたまた、お前か…」


お馴染みの亭主を睨みつけながらも

おねだりするお馴染みの黒猫。


「あっち行けって何度も…!」


亭主がまさに箒を振りかざそうとした時


「これあげるよ猫さん♪」


女の子が、黒猫へ煮干しをあげた。


「おいおい、おじょうさん…」


「いいの。これは助けてもらったお礼!この前はありがとね?」


―ふん。礼は言わねぇぜ?お前が俺に勝手に与えたんだからな


『にゃーご』


そう言いながら去っていく後姿を亭主は溜息しながら見送った。


「相変わらず可愛くねー奴」


「違うよおじさん!」


「ああ?」


「彼は恰好良い猫さんなんだよ!」


「…はい?」






時々、その街ではそのネコを見かけることが出来る。

縄張り争いをするでもなく、ただエサを追い求めて

歩く姿。しかし、己の範囲内で

危険にさらされているものがいるならば

そのどこにでもいる黒猫は

芯の強い、最強の存在となり魔を屈してしまうという。


その小さき姿に似合わない大きな心から

彼にはいつからか、似つかない名前が与えられた。

夜でもわずかに光るその、黒美やかな毛並みにもちなんで


『黒騎士』と。


後にあの茶色い巨体の犬に絡まれ

散々大笑いされながら茶化される羽目になろうとは

黒猫本人も思わなかった。



終わり


もうずいぶんと、ここに小説書いてなかったなぁ。

などと思いながら、唐突に思い出したのも何かの縁。

せっかくだから、この話をここにも載せる事にしました。


断じて、同じものを載せるのが面倒くさかった分けじゃありません。

時間やアイデアがなく、調子も悪かったからです。


調子が戻ってきたので、これからちょくちょく

こうして載せるかもと思いますので

初めての方、これからよろしくお願いします。

お馴染みの方、これからも迷惑をおかけしますが

どうぞ、広いお心と生暖かい眼で、見守ってくださいませ。

ここまでお読みいただけまして

本当にありがとうございました!!

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