つよく
自分が他人とは違うと感じたのは、いつのことだろう。
他人より強い体。
他人より弱い魔力。
他人より賢い頭。
そんなものじゃない。私が感じたのは。
私自身が、私自身ではない感覚。
何が起こっても、常に冷静に観察する自分。
腕が切れても、じっと傷口を見つめ。
足が折れても、動かして。
体が雷電に撃たれても、ただただ制御することを考えて。
その時のことを、父はひどく心配していた。
「トールディン。人形には、ならないでくれよ……」
何を言っていたのか。私は未だに判らない。
だが、私は私だ。リリンが望む、英雄のトールディンだ。
--ホントウニソウダロウカ。
民が賊に襲われている、私はそれを助けて。
--ツヨクヤサシイ、エイユウヲエンジテ。
パーティーで可愛らしく、美しい少女に見とれて。
--イタイケナ、ショウネンヲエンジテ。
化け物になっても、愛しい彼女を救おうと。
--ミニククモウツクシイ、バケモノヲエンジテ。
……。私は……。
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「リリン!助けに来たぞ!」
蒼焔を、纏いし勇者が辿り着く。
そこは、玉座。王の間。
何千の人が入れとも、埋まることはない王の間。
「よく来たな!雑魚が!」
玉座の前に、王が一人。
「ほう?あの化け物はどうした?」
「トールディンは……死」
「グガアアアアア!(ありえん!そんなことは!)」
吠える。吼える。災厄と呼ばれる龍が。
「ああ……。死んではいない。ただ……」
「ただ、なんだってんだよ!」
白に誓いし勇者が吼える。もどかしく喋る、蒼焔の勇者に。
「クククッハハハハハハハハハ!」
王が笑う。嘲笑う。
鮮血を、迸らせながら。
「ガッハ……!な、なん、だッ?」
「呆気ないものだ。こんなモノに、私は苦しめられたのか?」
白銀の髪。白銀の眼。白銀の鎧。
王に、鮮血を纏わせた白銀の剣を突き刺しながら。
英雄は嘆く。
目を見開き、英雄を見る少女。
英雄は、剣を引き抜き少女に歩み寄る。
少女は、ただ呆然と立ち尽くし。
災厄が寄り添い、英雄を睨む。
白に誓いし者達が、英雄を牽制するように少女の前へと。
「くっ……くくっ」
英雄は笑う。
「瞬時に見抜くか、兵達よ」
英雄は悠然と佇み、白き者達を眺める。
「……くくっ」
英雄は嘲る。
「なぁ、蒼焔。欲しくはないか?何者にも染まらない、その聖女を…!」
英雄は--吹き飛ばされる。
「黙れよ!そこからいなっ……!」
「じゃれるな、白の」
英雄は、白いに誓う勇者をふき飛ばす。
「うっ……!」
「サカキ!」
ゆったりと、余裕を携え歩いていく。
息を飲む。緊張が走る。この場にて、人形以外の想いは一つ。
しかし英雄は、未だ来ない……。